ゲストハウス LAMP(ランプ)豊後大野

祖母山の麓にひっそりと佇む廃校をリユースした『ゲストハウスLAMP豊後大野』。

異国情緒あふれる建築物と雄大な自然が創造する非日常的な空間に磨きをかけ、

ITを駆使した地域活性化を目指す。

 

report index

プロローグ まるで絵本の中から飛び出してきたかのような空間

廃校を再利用して2017年8月6日にオープンした『ゲストハウスLAMP豊後大野』。ドイツの伝統的な建築様式「木組みの家」を彷彿させるゲストハウスの背景には雄大な祖母傾国定公園の景色がひろがり、まるでヨーロッパの山間部にでもいるかのような空間に包まれます。この建物は昭和44年に廃校になった「尾平小学校」を再利用したもので、後世の人々の手によって命が吹き込まれ、キャンプ場や祖母山を目指す登山家の宿泊施設として生まれ変わり、その後、幾度か運営形態を変えながら、平成25年に営業がストップ。現在は「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク」登録をきっかけに、東京に本社をおくWEB制作会社「株式会社LIG」が地方創生事業として参画。そして東京から支配人として髙橋ケン氏ご一家が移住、さらに地域おこし協力隊をスタッフとして迎えて新たな歴史を紡ぎ始めました。

ちなみに「ユネスコエコパーク」は、生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目的とすると共に、保護・保全だけでなく自然と人間社会の共生にも重点が置かれています。そんなことから『ゲストハウスLAMP豊後大野』では集客を目的にするだけでなく、「ユネスコエコパーク」の定義に沿う実験・実践を日々の活動とし、さらにインターネットを利用し、豊後大野市という土地の情報の発信にも力を入れています。館内はFree Wi-Fiが設置されているので、都会の喧騒を離れて大自然の中で仕事をされるビジネスマンの利用も着々と増えているのだそうです。

今回のレポートでは、祖母山の麓に佇む『ゲストハウスLAMP豊後大野』の魅力をじはじめ、その空間の雰囲気からは“真逆”ともいえる最先端のIT技術を駆使して日々行われている若者たちの活動や奮闘、また、今後のビジネスビジョンについてお聞きしました。

【レポート:中本望美】

もともと東京でWEB編集やライティング、編集が主な業務だったという髙橋ケン支配人。地方創生業務として『ゲストハウスLAMP豊後大野』の担当責任者に抜擢されたことにより、前の部署の引き継ぎを2018年4月上旬まで行い、終えると同時に豊後大野市へ家族とともに移住しました。前団体が閉業してから『ゲストハウスLAMP豊後大野』のオープンに着手するまでの期間は施設内が掃除も整備もされないまま放置されていた状態だったそうで、髙橋支配人自ら汗を流し、家族の力を借りながらコツコツと庭園・駐車場・施設内を整備しつつ、『LAMP』のコンセプトにマッチするように家具やインテリアを手作りで準備したそうです。

▲近隣の山が育んだジビエ料理や自家栽培の無農薬野菜をふんだんに使用したディナーコース。

オープンしたばかりの頃は素泊まりプランのみでの運営が主でしたが、2018年2月に廣岡陵シェフを迎えて3月から朝・夕食・レストランの営業をスタート。レストランでは、ランチタイムには『カレースタンド』として、オリジナルスパイスで仕込んだカレーを提供。夕食では、世界が認める大自然で育ったジビエ料理をメインに、自家菜園で育てた無農薬野菜・無農薬米、旬の山菜を使用した創作料理を提供。
もともと和食職人だったという廣岡シェフですが、ヨーロピアンスタイルの外観・内観にマッチした創作料理を手がけ数々のレシピを考案。地酒やオーガニックワイン、手作りサワーなどのドリンクメニューも充実しており、パーティやライブイベントの利用をされる団体もいるのだそうです。取材当日はレストランの壁にスクリーンを作成中で、映画の上映イベントやライブ配信イベントなども企画していく予定なのだとか。

尾平鉱山について

豊後大野市緒方町の南部、尾平地区には選鉱場等の尾平鉱山の施設跡が残っています。尾平鉱山は江戸地代に岡藩により錫などの採掘が本格的に始められたましたが、昭和20年代の最盛期には3,000人を擁し、映画館や店が立ち並ぶにぎやかさだったと言われます。しかし昭和29年に閉山となりました。

▲情報・画像提供:大分県

 

施設紹介1 外観の風景

▲レトロな色合いが可愛らしいスタッフ手作りの看板。

ゲストハウスの所在地名である「尾平鉱山」は、江戸時代から昭和29年に閉山するまで、多くの労働者や家族が集まり、全盛期には住宅や店が並ぶような賑やかなひとつの集落ができていたのだそうです。その集落で過ごしていた子どもたちが通っていた「尾平小学校」は、閉山とともに人工が減少し昭和44年に廃校。木造建2階建ての立派な校舎は廃校後もそのまま残されました。

▲ゲストハウス入り口。階段を隔てて建てられていた別棟を外壁で囲み、ひとつなぎの建物にリノベーションしている。

以前は校庭だった場所は、駐車場とキャンプ場として活用。開校時は生徒数が多く在籍し、この時代では規模が大きい小学校だったこともあり、地域のお祭りなども校庭で行われていたようです。

▲エントラスの階段の周囲には、当時の外壁がそのまま残されています。

▲『株式会社LIG』のコンセプト『LIFE IS GOOD』やゲストハウスオリジナルのTシャツも販売。

 

施設紹介2 共有スペース

エントランスから階段をのぼると、本館の1階部分につながる場所にフリースペースがあり、本を読んだり談話したり、自由に過ごせるスペースがあります。レストランを挟んで両側にゲストルームがあり、壁面には木を駆使したデザインやアート作品が飾られています。

ゲストルームには男女混合ドミトリー、貸し切りドミトリー、大部屋も完備され、最大で70名の利用が可能です。祖母山の山開き後には多くの登山ファンで賑わいをみせ、夏にはホタル鑑賞やトレッキングを楽しむ人々がキャンプをする姿も多く見られます。オフシーズンには、パーティや社外研修、団体の貸し切り宿泊も可能。また、髙橋支配人自身がイベント運営が得意なこともあり、自社イベントも開催されています。

 

施設紹介3 ゲストルーム

教室だったスペースはそれぞれ家具が設置され、宿泊部屋になっています。当時の立派な太い柱を活かしながらリノベーションされており、ピカピカに磨かれた長い廊下が校舎だった頃の面影を残しています。

▲2段ベッドが設置されたドミトリー。

▲ツイン・トリプル用のプライベートルーム。ドミトリーに抵抗がある方でも安心して宿泊できるようになっています。

▲共用浴場は男女別々に広く造られており、シャンプー・コンディショナー・ボディーソープが完備。宿泊者でなくても、有料(600円)で利用することができます。

男女混合ドミトリー 3,500円
女性専用ドミトリー 3,800円
大部屋(10以上〜20名まで)2,800円〜

【無料サービス】
Free Wi-Fi
共同浴場(男女別々に完備)/共同洗面所/ドライヤー/シャンプー/コンディショナー/ボディーソープ/スリッパ

【有料サービス】
歯ブラシ 100円/レンタルタオル 100円/レンタルバスタオル 200円/ランドリー 800円〜/シャワー利用のみ 500円/浴室利用 600円

 

施設紹介4 レストラン

レストランには手作りのガーランドがディスプレイされており、ワクワク感や遊び心を掻き立てられます。

中央にどっしりと構える立派なソファーセットは全てスタッフによる手作り!「こんな家具がほしい」というものをデザインから設計まで全て独学で造り、テーブルセットはもともと黒い天板だったものを好みの質感をカラーにリメイクされたのだそうです。

カウンターキッチンもスタッフのDIYによるもの。営業時間外はスタッフが情報発信するスペースになったり、シェフがレシピを考える場所になったり、スタッフ自身のお気に入りスペースにもなっているのだとか。

 

料理紹介 食材からスタッフが育てる創作料理

「手作り以外は出さない」と語る廣岡シェフの腕が鳴る。

スタッフが田畑を耕し、無農薬で大切に育てた食材を使用する

こだわりの創作料理。

 

ディナーコース料理 2,000円(込)

※前日までの完全予約制。食事のみの予約も可能。

料理を担当するのは、元和食職人の廣岡陵シェフ。有名ホテルや和食店で修行を積みながら「自分が育てた米や野菜を食べてもらえるお店を持ちたい」という思いが強くなり、家族で豊後大野市に居住され、農業を始められたといいます。野菜は大地の力を利用して育てる無農薬栽培で、お米は昔ながらの掛け干しをして手間暇かけて甘みを引き出した上質なものを育てていらっしゃいます。

廣岡シェフの料理は、和食の繊細な味わいやデザインを取り入れながら、『LAMP』の雰囲気を意識した和洋折中の創作料理。ジビエと自家栽培の米、野菜、山菜をふんだんに使用したシェフオリジナルの料理の数々は、見た目からも祖母山の恵みを感じられます。

メインは鹿肉のロースト、山菜ときのこを添えて自家製玉ねぎドレッシングで整えた一皿。鹿肉は柔らかい歯ごたえと肉の旨味がダイレクトに感じられます。ジビエは狩猟技術と血抜き、捌き方で味が全く変わるそうで、豊後大野でも腕利きのハンターからジビエ特有の臭みがなく新鮮で落ち着いた上質なものを直接仕入れているとの事。

和食職人時代に培った技術を活かした前菜の盛り合わせ。この日は、椿に見立てた紅くるり大根の酢漬け、ポテトサラダ、鳥のハム、かぼす釜のアジのマネ、スパニッシュオムレツでした。どの料理も「季節と旬と手作り」が意識され、優しく繊細な味わいでした。ちなみに、木の器はこの地域で伐採された木を利用したシェフの手作りです。

 

ランチのみ営業 『カレースタンド』

※月・火曜日は定休

大分産のウコン(ターメリック)や数種のスパイスをブレンドしたオリジナルカレーソースを使用。この日は自家栽培の自慢のお米と野菜以外に、きのこと鶏肉のスモークがトッピングされていました。

さらりとしたカレーソースですが、スパイスの香りが華やかで少々ピリッとした刺激があり、食べごたえがあります。

廣岡シェフコメント:

「料理と真剣に向き合っていると、手作りである大切さ・素材の良さの大切さだけでなく、その素材がどのように育ってきたのか、素材の背景も大切だと思いました。だから、自分で育てられるものは自分で育ててみたい、そして自信をもって提供できるようにしたいと考えています。髙橋支配人も私の価値観に賛同していただき、農業でも一緒に汗を流してくれます。料理として提供されるまで労力も手間もかかりますが、『手作りでなければ提供する意味がない』という座右の銘のもと、この場所ならではの料理を探求していきたいと思っています。また、ドリンクなども手作りで仕込んだものも多数用意しています。食事だけでも予約可能なので、ぜひ食べにいらしてください」

 

インタビュー 髙橋ケン支配人

雄大な自然をフィールドにしたゲストハウス運営とWEBの編プロという2軸で

『人生を楽しむ』をテーマに自分たちのライフスタイルを発信することで、

この地域に興味を持って訪れる人を増やし活性化につなげていきたい。

▲支配人・エディターの髙橋ケンさん(中央)
スタッフ(地域おこし協力隊)のマイケル聡士さん(左下)
シェフの廣岡陵さん(右下)

Q:『ゲストハウスLAMP豊後大野』をはじめるきっかけを教えてください。

「『祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク』が認定されることをきっかけに、祖母山麓の活性化をはかる大分県の方々と、地方創生に取り組む当方の株式会社LIGがつながりました。当社は長野県で『ゲストハウスLAMP野尻湖』を第一号として立ち上げ、宿泊だけでなく地域再生の活動等を行っていますので、その実績をもとに『ゲストハウスLAMP豊後大野』に第二号として運営を任せていただくことになりました」

Q:豊後大野市に移住しようと決断されたのは何がきっかけは?

「私は長年、都心部で編集プロダクションやWEB制作、アプリ開発をする会社のエディターとして従事してきましたが、自然の中でゆったりと過ごすのも大好きでしたので、いつかは田舎暮らしをしたいと思っていました。そんな中、大分県の山奥でのゲストハウス運営の話がタイミングよく湧き上がり、当社が行う『いいオフィス事業』のように、誰もが『いい!』といってもらえるような働き方やスペースを提供できるのではないか?という可能性に魅力を感じたこともあり、家族も同意してくれたので楽しみに移住してきました」

Q:移住されたのはいつですか。

「2017年の4月です。前部署を3月末〜4月にかけて引き継ぎを終えると同時に引っ越し。そして即刻施設の掃除に入りました。しばらく人の手が入っていなかったので、汚れや劣化がひどかったですね。スタッフはまだ自分一人でしたから、もくもくと修繕作業をしていました。『LAMP』の雰囲気に合うようにインテリアを作ったり飾ったり、色を塗ったり。オープンは2017年8月6日で、宿泊のみでスタートしました。今は地域おこし協力隊のスタッフやシェフも来てくれて、この土地ならではの『LAMP』になっていると思います」

Q:しばらく生活してみてどのように感じていますか。

「都心部ではかなり早いスピードでビジネスが展開し、自分もその中で走り抜けている自信がありました。会社の方針として、働き方もプライベートも斬新なアイディアを持ちながら価値観を発信することで社会に『提案』を行っています。自然の中で暮らす事に興味もありましたから、インターネット上の情報から『こんな感じかな』というようなイメージはありました。しかし、情報や最先端のツールがあったとしても、いざ何もない山の中に一人で置かれると、食材を調達する術も自然と共存する知識も無ければパワーもなかった。生きぬく力が無いことをまざまざと思い知らされました。田畑を耕して作物を育て、それを最大限活かして生活しているおじいちゃん・おばあちゃんに感動しました。今ではスタッフと共に田畑で汗を流し、最近ではハンターの資格も取得しましたので、ジビエを自分で確保していけたらと考えています」

Q:今後どのように『ゲストハウスLAMP豊後大野』を運営していきたいですか。

「これだけの敷地と施設をもつゲストハウスだから、さまざまな形で利用していただけると思っています。キャンプスペースを充実させたり、祖母山の登山との宿泊パッケージなど、ゲストハウスとしての機能を充実させたいです。さらに自分はこれまでも、アーティストを呼んでライブイベントを開催したり、色々な作家さんを呼んでワークショップイベントを行ったりなど、企画からキャストブッキング、運営までの全てを独自に行ってきた実績がありますから、そのノウハウを活かしながら、コンサートや映画上映会、大小パーティを含めたイベントを提案したり、受け入れたりしながら、たくさんの人々の手で『ゲストハウスLAMP豊後大野』を創ると同時に、人・まち・文化をつなげていくことで地域活性化の中心的存在でありたいと思っています」

Q:地域創生に向けて具体的に取り組んでいることがあれば教えてください。

「まず、『豊後大野カンケイ協会』を立ち上げ、現在抱える問題点の中から逆の発送で利点を見出し、WEBでこの土地ならではの魅力を発信しています。また、地域おこし協力隊をスタッフに迎え、編集や情報発信のスキルを伝えながら将来どこの土地に行っても自分の足で立っていられるように育成しています。記事には『ゲストハウスLAMP豊後大野』の最新情報をSNS等で発信するだけでなく、自分たちのカルチャーとこの土地の文化が混ざることで化学反応が起きた体験などを掲載しながら、自分たちのライフスタイルに共感してくれた人がU・Iターンで移住定住し、新たな文化が築かれることを目的にしています。そして、WEBメディアを通して近隣の地域同士がつながり、結果として大きなメディアが誕生することで話題を呼び、新たな雇用を生み出せると思っています。大自然と生きてきた昔ながらの生活文化の中に、全く違う文化をもった自分たちがやってきたことで、地域創生の火種になりたいと思っています」

Q:お忙しい中、ありがとうございました。

 

エピローグ 取材を終えて

代表の髙橋ケン支配人は、自分のライフスタイルを心から楽しみ、都心部で培ってきた多角的な目線と独自の世界観で綴った記事を発信することで、同じような世界観をもった人々と着実につながりを広め、自ら足を運んで数々の取材を積み重ねて得たエディターとしての実績を元に、さらに高みを目指して執筆活動にも取り組みたいと語っていらっしゃいました。

『ゲストハウスLAMP豊後大野』のこれからの変貌と新たな文化の創造に注目していきたいと思います。

 

アクセス 原尻の滝から車で約30分

車で豊後大野市の『原尻の滝』から県道7号線を進み約30ほどの距離にあります。尾平登山口のすぐ近くにあり、入り口に看板があります。

ゲストハウスLAMP(ランプ)豊後大野

住所:大分県豊後大野市緒方町尾平鉱山57
電話:0974-47-2080
営業時間:チェックイン15:00~チェックアウト10:00
             (受付21:00終了 消灯23:00)
ランチタイム:11:30〜14:00(L.o.13:30)
ランチタイム定休日:月・火曜
※その他、農作業やメンテナンスのため不定休あり。事前にお問い合わせ下さい。
※イベントをご希望の方は別途相談可能です。

MAP

取材・編集スタッフ

モデル:佐野りさこ・佐藤ともか
レポート・編集:中本望美
撮影・制作:ヴォーク有限会社 

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