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2005年11月07日

宮崎の女子プロボクサー・上村里子 <2> [ 格闘技 ]

 上村選手の話はさらに続いた。中国での試合、北朝鮮と日本の女子ボクシング、宮崎を拠点にしていること、仕事や学業についてなど――。話を聞きながら感じたのは上村さんのハートの強さ、信念の強さだった。
上村さん サンドバッグ
宮崎の女子プロボクサー・上村里子 <1>
宮崎の女子プロボクサー・上村里子 <2>
宮崎の女子プロボクサー・上村里子 <3>
宮崎の女子プロボクサー・上村里子 <4>

 
完全アウェイでブーイングを糧に

――戦績は?

 3勝4敗。負け越してます。自分で言うのもアレだけど、ほとんど接戦です。

――そして今回の世界挑戦。

 ボクシング協会は「ありえないオファー」と言ってました。

――対戦相手(ソン・チョーロン)については?

 5戦5勝、3KOと聞いてます。
 昨年、中国で大きな怪我をしたんですよ(2004年10月29日、中国・瀋陽・サンライズホテル、ジュニアフライ級2分8ラウンド、vs Eun Soon Choi、1-2で判定負け)。北朝鮮の選手に負けたんですけど、内容が良かった。最初のダウン1つがなければ勝てたと思います。それがあって、今回韓国サイドからオファーがあったし、日本側の推薦があったんでしょうね。出たくても出れないんですから。ビッグチャンスです。いろんな人を巻き添えにしながら(笑)、自分にプレッシャーを与えつつ、いい結果を出したい。

――出発は?

 10日です。前日に調印式と検量があります。
 中国でやったときは2分8ラウンドでした。そのときもメインは世界戦で、凄く立派な会場だったんです。男性でも調印式とかありますよね? あれ以上の雰囲気。VIP待遇です。
 試合は野次とブーイングが飛ぶんですよ。それが気持ちよかった。1ラウンド、カウンターでダウンして時間に救われたんです。それからはブーイングを糧にしてやりました。

――中国のどこだったんですか?

 瀋陽です。

――ああ、シェンヤン(中国語での呼び方)ね。

 北朝鮮の応援団は100人いました。日本は選手と関係者だけ。中国の人たちも北朝鮮を応援するんですよ。

――それって完全アウェイ…。

 恐ろしい光景でしたよ。それにもう、カチーーーンと来て(笑) 相手はもう逃げに入ってて、追い詰めないとアピールできないんで。ジャッジは中国、北朝鮮、韓国の人で1-2でした。

――え! その組み合わせで1-2!?

 1ポイント取ったんですよ(笑) 今回も判定だと負けます。相手のボクシングを潰すか、ダウンを取るしかないですね。

――相手の情報ってどのぐらい入ってたんですか?

 前回(中国)は1ヶ月前に試合が決まったんです。女子の選手は、試合が決まってから練習をやるんです。でも、私は普段からやってるんで、すぐいけます。
 北朝鮮の選手というのはわかってました。ボクシング事情も。アマチュアボクシングが盛んなんです。他はわからなかった。身長も体重も、利き腕さえもわからなくて。試合の前日に初めて顔を合わせました。

――出たとこ勝負ですよね、それは。

 はい、出たとこ勝負です(笑)


北朝鮮と日本の女子ボクシング

――北朝鮮のボクシングって?

 北朝鮮は国を挙げてやってるんです。貧しい村から選手を連れてきて。選手は国のなかでは優遇されてるほうだと思います。チラッと見たときに、表情が豊かだったんで。でも、「国のため」ですから。負けたらね…。
 私はもう何が何だかわからなくて。でも、一番いい経験です。

――選手はどうでした?

 上手い! 日本の選手は下手ですね。技術はなくてガチャガチャ状態。海外の選手はパンチの角度、スタミナが違う。環境も選手層も違いますから。北朝鮮は何千人といます。

――北朝鮮のアマチュアボクシングのレベルは?

 北朝鮮はアジアで最強です。日本は銅メダルだったかな。アマチュアボクシングは北朝鮮、韓国、フィリピン、インドと来て日本はさらに下。日本の女子はプロでも少ない。リングに上がっているのはごくわずか。

――じつは、日本女子ランキングを見てみたんですよ。ランク外ですけど、(今は亡き)全日本女子プロレスの藤井巳幸(サソリ)とか載ってて。他の競技の選手がけっこういるなぁ、と。

 他から引っ張ってきたり、そういうのが主流です。ボクシングのスタイルがまだ作られてないし。

――でも、最近はメディアで取りあげられる機会は増えてますよね。しばらく前にテレビで見ました。

 昨年からメディアへの露出は増えてますね。競技者も年々増えてます。プロの選手も。でも1、2戦であきらめる人もいる。ライセンスの上から競技人口が上がらない。ボクシングに専念している人はごくわずかです。ボクシングだけで生計を立ててるのはライカ選手(前WIBA世界フェザー級王者)だけでしょう。
 私は地方にいるし、メディアにも取りあげられない。でも、試合に出れない限りは(宮崎県の人たちに)わかってもらいたい。試合は好きですよ。


ここはいい環境

――どのスポーツもそうなんですけど、宮崎にいることでの不利というのはあります。

 (スパーリングの)パートナーはいないし、リングもない。でも、ここはいい環境だと思ってます。厳しいことはあるけど、まず信頼できるトレーナー(林さん)がいる。合う合わないってありますから。二人三脚でやってます。夜中に練習をさせてもらってるし、(フィオーレには)ジムを使わせてもらっている。そういう方々に支えられてますから。
 仕事も捨てられない。もう、30なんで。現実もある。いつ怪我で終わるのかもわからない。上京して(ボクシングに)打ち込むというのは厳しいです。仕事をやりながら、教えながらやれるというのはいい環境です。教えることの大切さですか? 勉強になりますよ。
 フィオーレは運動のスペシャルリストがそろってます。ボクシングに専念しながらやれる環境です。


今を頑張る

――上村さんは学生でもあるんですよね?

 早稲田大学の通信教育課程を受講してます。じっとしてるとダメなタイプなんですよ。何かやらないと落ち着かない。

――仕事があって、レッスンを教えて、ボクシングがあって、勉強もしている。大変なのでは…?

 時間をうまく使っていけば、4つのサイクルでいけますよ。半年やれてますから。こういうときだからこそ頑張れます。
 フィオーレではわかんないことも教えてもらえますし。「健康と福祉」を専攻してるんです。みんなが助けてくれます。
 寝る時間は少ないですね。4、5時間です。分単位でもったいなくて。時間の使い方はうまくできてます。達成したときは満足感がありますよ
 毎日のサイクルが一緒だと、起きなくていいのに目が覚めることもあります。じつは私って、不器用なのかもしれない。今は変化がない状態を保ってます。

――昼のお仕事は?

 楽天KCでOLをやってます。

――楽天KC?

 国内信販が今年、楽天のグループ会社になったんです。

――ああ、そうなんですか。

 イオンの近くにあるヤマダ電機に出向してます。昼間はそこで仕事、火曜と金曜が休み。仕事が終わったら、もう(フィオーレに)ダッシュです(苦笑) 深夜は2時間勉強して、ホームページに書き込みして。やること多いですね。やることがないよりは、あったほうがいい。貧乏性なんです。
 会社には「仕事に支障がなければ」とOKをもらってます。

――それはいいですね。普通はバイトとか、仕事以外のことはダメですもんね。

 理解ある会社です。楽天KCの収入は学費にしてます。フィオーレで得ているお金はボクシングに。試合の渡航費とか滞在費とか。

――そうなんですか。

 だから、(経費が出る)海外での試合は「やります!」と言います。いろんな国の事情があるけど、戦うならどこに行こうが一緒。
 自分を認めてもらって、今までかかった費用を取り戻すぐらいの気持ちでやってます。協力してくれた方々に、恩を仇で返さないように。誤解しないでほしいのは、私は「お金で闘ってる人」じゃないです。
 今は少しでも知名度を上げて、今後もプロとしてやる足がかりにしたい。年齢のこともあるし、今をほんとに頑張らないと。

<つづく>

投稿者 pawaspo : 2005年11月07日 00:13

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