TPAM(ティーパム)
横浜を舞台に繋げる、国境を超えた舞台芸術のプラットフォーム「TPAM」イベントレポート!
以前、パワナビでもご紹介したアートフェスティバル「KAFE9」など、横浜では数々のアートイベントが盛んに行われていますが、観客の私たちから見て時折気になるのが、アート関係者同士は一体どこで繋がり人脈を作っていくのか、例えばとある劇団がとある劇場で公演を行う際に、その劇団の制作を一任する制作会社の方はどのようにして劇場関係者とつながりを持ち公演を実現させていくのか、ということではないでしょうか?
そこで今回ご紹介するのは、2013年2月9日から2月17日まで横浜を中心に展開されたアートイベント「TPAM」(ティーパム)。
この「TPAM」は、通常のアートイベントのように、演劇やダンスなどの上演作品を観ることができるだけではなく、舞台芸術関係者同士の交流を目的として行われている珍しいイベントで、その参加者は日本全国のみならず、世界各国に及んでいます。
今回のレポートでは、この「TPAM」の一番の見所でもある、舞台関係者同士のネットワークを広げることができる「ネットワーキング・プログラム」を中心に「TPAM」のイベント当日の風景と、参加者、企画者へのインタビューを交えながらお伝えいたします。
どうぞ、ごらんください。
(レポート:井手悠哉、井上哲朗)
TPAM in Yokohama 2013(国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2013)
主催:国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2013 実行委員会
会期:2013年2月9日〜2月17日
会場:ヨコハマ創造都市センター(YCC)、KAAT神奈川芸術劇場、BankART Studio NYK、横浜赤レンガ倉庫1号館、他
「TPAM」とは?
「TPAM」とは、1995年に「芸術見本市」(Tokyo Performing arts Market)として開始。「見本市=Market 」という名の通り、いわば舞台芸術作品の流通促進を目的としていましたが、2005年からネットワーキングにより重点を置くようになりました。
2011年から会場を横浜に移し、「TPAM」のMを「Market」から「Meeting」と改め、「国際舞台芸術ミーティング in 横浜」として再出発しました。
会期中、どんなことを行っているの?
「TPAM」では上演作品を紹介する「ショーイング・プログラム」と、舞台芸術関係者が集い、交流する「ネットワーキング・プログラム」の2つがあり、観客からプロフェショナルまで舞台芸術に関わる様々な人が集まります。今回のレポートでは「TPAM」の特色でもある、「ネットワーキング・プログラム」にスポットを当てご紹介いたします。
ネットワーキング・プログラム会場「BankART Studio NYK」
「ネットワーキング・プログラム」は、みなとみらい線「馬車道駅」付近にある「BankART Studio NYK」の2階をメイン会場にして行われました。
BankART Studio NYK
「BankART」とは、横浜市が2004年にスタートした、歴史的建造物や元港湾倉庫を芸術文化に活用し、都心部再生の起点にしていく「創造都市構想」のパイロット事業。(試験的事業のこと)
美術、建築などのパフォーマンスを中心に、スタジオ、スクール、カフェ、ショップ、コンテンツ制作など多岐にわたり事業を行っている。入場者数は年間約12万人。
▲会場周辺マップ
▲「BankART Studio NYK」の一階は普段、カフェ&ショップ、イベントスペースとしても使われている。
▲イベント当日、会場の3階では、ショーイング・プログラム、フォレスト・フリンジのインスタレーションやパフォーマンスが行われていた。
「TPAM」ネットワーキング・プログラムの様子!
ここから「TPAM」のメインプログラムである、「ネットワーキング・プログラム」のご紹介をしていくのですが、ひとえに「ネットワーキング・プログラム」といっても、その参加方法は4つあり、舞台芸術関係者同士が様々な距離感や雰囲気の中で価値のある交流ができる、交流方法が提案されています。
・スタンド
自分の紹介するスタンドを持ち、来場者と自由にコミュニケーションがとれるスタンダードなプログラム。
・映像プレゼンテーション
TPAM参加者に向け、映像を交えて自分の活動のプレゼンテーションを行います。
・グループ・ミーティング
1つのテーブルにつき、ホストになる団体と参加者が少人数でミーティングを行います。20分という限られた時間の中ではあるが、双方向的なやりとりから、参加者同士が知り合うきっかけとなる。
・スピード・ネットワーキング
国内外のフェスティバルや劇場、ホールなどのプレゼンターと1対1で行うミーティング。普段知り合うチャンスのないプレゼンターと出会え、さらにグループ・ミーティングよりも具体的な話し合いを行うことができる。
▲「ネットワーキング・プログラム」会場全体の様子。国内外から、様々な方々が参加されています。
▲こちらはグループ・ミーティングとスピード・ネットワーキングのエリア。
▲そしてこちらがスタンドエリアです。
「スタンド」参加者へのインタビュー
実際に「スタンド」に参加されている団体がどういった想いで参加しているのか、また、この場を創出したファシリテーター(進行役)・野村政之氏へのインタビューを行いましたのでご覧ください。
Next(ネビュラエクストラサポート) 川口 聡さん
Q:「TPAM」に参加されたきっかけを教えて下さい。
「2年前にスタンド出展をしたのがはじまりで、それからずっと参加しています」
Q:TPAMに参加されて何か変化したことはありますか。
「そうですね、出展した当初は、舞台制作支援を行っている自社の「チラシ折り込み代行」や「メールマガジン」「舞台制作塾」といった事業やサービスの紹介を中心に行っていたのですが、この「TPAM」という催事のシンポジウムや他の団体と繋がっていく中で、徐々に、国際的に共通する舞台芸術を巡る問題や、社会の中でどう舞台芸術を浸透させていくのかの課題について考えるようになり、参加の仕方も既存の事業の紹介と言うよりは、これから様々な課題に、どう新たなアイデアや事業を立ち上げて取り組むのかの模索という方向にシフトして行きました。そのためにいつでも情報交換、意見交換を行える場、課題に対して提言を行っていく組織を立ち上げていくという発想につながり、自社に留まらない「舞台芸術制作者オープンネットワーク(略称:ON-PAM)」設立(2013年2月設立)の動きに繋がったりしましたね。自社としてもこれからどういう方向でアクションを起こしていくべきかを常に考えていて、そのための協働相手を探していくための場としての、参加の仕方になってきたと思います」
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株式会社precog 黄木 多美子さん、ケティング菜々さん
Q:「TPAM」に参加された理由を教えて下さい。
「当社が日本で新たにプロデュースを行なっている、ドイツの「コンスタンツァ・マクラス/ドーキーパーク」というカンパニーにスポットを当て出展しています。このカンパニーはヨーロッパではとても有名なのですが、日本ではまだまだ知名度が低く公演もあまりないので、PRを兼ねてご紹介させていただいています」
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横浜トリエンナーレ 帆足 亜紀さん(写真左)
Q:「TPAM」に参加された理由を教えて下さい。
「3年に1度、横浜で現代美術の国際展覧会を行なっているのですが、意外 と横浜トリエンナーレのことを知らない方も多いので、今回は広報も兼ねて参加させていただいております。ちなみに前回の横浜トリエンナーレは2011年に 行ったので、次回の開催を来年に控えているんです。現在はまだ準備中なので提供できる情報が少ないのですが、来年TPAMに参加した際には、もっと具体的に何かをアピール出来ればと考えています」
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枝光本町商店街アイアンシアター芸術監督 市原 幹也さん
Q:普段どのような活動を行なっているのでしょうか。
「私たちは北九州市八幡東区枝光の地域活性化を願い、商店街の空き店舗を拠点とした、臨時劇場『枝光本町商店街アイアンシアター』を運営しています」
Q:「TPAM」に参加された理由を教えて下さい。
「アー トはもちろんのこと、観光や商店街振興など、最近幅広い分野の方々からお声がけいただいており、私たちが今やっていることが、広く皆さんのお役に立てるのではと感じるようになってきました。なので、このような場所に来て私たちの情報をオープンソース化することで、来場者自身の活動に生かせていただければと 考えており、また同じ思想や理想をもった方と巡り会えるのではないかと期待しています。私たちが持っている価値を放出しながら、私たちも皆さんに出会って 色々なことを吸収することが可能なのではと思い参加しました。もちろん日本国内の方ばかりではなく、私たちは韓国での活動など海外とのノウハウも持っているので、海外の方とも出会えたらいいなと期待しています」
Q:実際に参加されていかがでしょうか。
「そうですね、グループ・ミーティングが素晴らしいなと思いました。その場自体が熱を持っていて出会う深さがより良いものになっている気がします。このイベント全体が出会うことのみにとどまるのではなく、出会った後のことを更に繋げてくれているのでとても良いですね」
Q:今後の活動を教えて下さい。
「来年横浜でトリエンナーレが開催されるのですが、その横浜トリエンナーレを一緒に盛り上げてくれる市民サポーター『横浜トリエンナーレサポーター』という有志の方々に向けた『トリエンナーレ学校』があり、今年の1月から3月まで計3回、私がその講師を務めます。3月に第3回が行われるのですが、2回目に来ていない方でも参加可能なので、興味が有る方は是非とも参加していただければと思います」
ファシリテーター・野村政之さん・インタビュー
▲野村政之さん
Q:野村さんは、このブース全体のファシリテーター(進行役)をされたそうですが。
「ええ、全体のコンセプトや方向性を僕の方から提案させていただき、TPAMの事務局の方々と話し合いを重ねながらこの場を創出していきました」
Q:具体的にはどのような提案をされたのでしょうか。
「スタンドと1対1で行うスピード・ネットワーキングに関しては去年から行なっていました。スタンドにはそこに居る方にいつでもアクセスして喋れるという利点があり、スピード・ネットワーキングには1対1で対話するのでかなり濃い話が出来るという利点があるのですが、どちらも裏を返せば、スタンドは受け手側からみた時に受動的になりすぎてしまい、スピード・ネットワーキングは強い目的意識がないと参加することさえ億劫になってしまうというデメリットが有りました。そこで今回はその2つの中間の、つまり程良い双方向性をもたせたグループ・ミーティングというものを企画しました。グループ・ミーティングとは6人ぐらいのグループが1つの机に座って、あるテーマを基にディスカッションをするのですが、グループなので参加者は聞く立場と話す立場を自身の判断で自由に選びコミュニケーションを取ることができます」
Q:グループ・ミーティングが加わったことで何か変わったことはありますか。
「全体の雰囲気がガラリと変わりましたね。先ほどお話したスタンドとスピード・ネットワーキングというある意味で両極端のプログラムを中和する形でグループ・ミーティングが加わったので、コミュニケーションの形に幅ができ、一種の“あそび”のようなものが生まれました。その“あそび”があることで個々のプログラムの場だけではなく、この空間全体が活性化され、立ち話や、手にコーヒーを持ち、座りながらのカフェスタイルなど、様々なコミニュケーションがあちこちで生まれています」
Q:参加者の反応はいかがでしょう。
「かなり好評だと思いますよ。雰囲気がすごく良いと言っていただいております。また、それまでネット上でしか知り合いでなかった方々が、直接会うことでイメージが覆されたというお話があったり、自分がどういうふうに周りと繋がっているのか、改めて感じたというお話もあり、私としては思ったとおりになったかなと感じてホッとしています」
-ありがとうございます。
▲野村さんのお話のとおり、会場では色々な場所で、色々な形のコミニュケーションが次々に生まれていました。
取材を終えて
パワナビ横浜取材班はそこまで舞台芸術に精通しているわけではありませんが、この「TPAM」というイベント、特にネットワーキング・プログラムに関していえば、作品が誕生する以前の一番深い部分を垣間見ることができ、私たちのような舞台芸術初心者にとっても非常に興味深く、世界各国から集った人々の「ここから何かを生み出していくんだ」という強い希望と情熱が充満した空間の心地よさはかけがえのないものでした。
普段の生活でこういう場面に遭遇することが難しいと知ったとき、このイベントの希少性、そして重要性を改めて感じました。
今回の「TPAM」は既に終了してしまいましたが、次回開催時には是非とも様々な人たちにこの場に足を運んでいただき、少しでも舞台芸術を身近に感じていただければと思います。