横浜市立間門小学校「タッチングプール」
『タッチングプール』で繋がる地域のコミュニティ!
2012年5月12日(土)、横浜市中区にある横浜市立間門小学校で、18年間続いているイベント「タッチングプール」が行われました。
横浜市立間門小学校は、公立小学校では全国でも唯一、敷地内に附属の「海水水族館」があることで知られていいます。
今回で開催18回目を数えるこのイベントは、地域のボランティアスタッフが「子供たちに海の生き物と直に触れあってもらうことで命の大切さを学んでもらいたい」との思いで立ち上がったもので、小学校の児童はもとより、地域の住民も一体となって楽しめる取り組みとして、今もなお、地域に根付いた活動を続けています。
今回のレポートでは、そんな「タッチングプール」のイベント当日の様子や、それを支える地域ボランティアスタッフの思い、そして間門小学校校長先生へのインタビューを交えながら「タッチングプール」を通じた学校と地域の関わりをお伝えいたします。
(レポート:井手悠哉)
タッチングプール
開催日:2012年5月12日(土)
会場:横浜市立間門小学校
住所:横浜市中区本牧間門29-1
主催:間門小学校アクアミューズフレンドリークラブ
URL:http://makado-aqua.com/
間門小学校と海水水族館「まかどシーマリンパーク」の歴史
「タッチングプール」のイベントの様子をご覧頂く前に、開催場となっている横浜市立間門小学校の歴史と、公立小学校では全国唯一の敷地内にある「海水水族館」(愛称:まかどシーマリンパク)の誕生についてご紹介いたします。
宇宙飛行士、古川 聡氏の出身校としても知られる横浜市立間門小学校は、前身である横浜市立間門尋常小学校も含めると、創立約80年の歴史を誇ります。
以前は校庭のすぐ近くに海岸があり、児童たちは海と密接に関わりながら学校生活を過ごしていたのですが、臨海工業地帯の埋め立て計画により海岸は埋め立てられ、児童たちと海の関わりは途絶えようとしていました。
▲創立から約80年の歴史を誇る「横浜市立間門小学校」
▲小学校校庭。現在でこそ、埋め立てられ高速道路が通るなどしているが、以前は、この校庭の奥に海岸が見えていた。
しかし、保護者や地域住民、そして卒業生の中で「何とか子供たちが自然の海と関わりを持ち続けることはできないのか」という声があがり、昭和33年、今から約50年前に全国でも非常に珍しい、公立小学校の敷地内に海水水族館を作ることが決定しました。
開館当初は海水を樽で運んだり、パイプで汲み上げるなどしていたのですが、埋め立ての距離が次第に長くなっていくと、その方法も難しく、人工の海水を作り、それをろ過し循環する施設を作り対応していたとのことです。しかし次第に機械の老朽化の問題などが浮上し、閉館に追い込まれることもあったそうです。それでも地域住民や地元の漁師の方々、ボランティアスタッフ、そして学校の先生の協力などで、現在も水族館は運営を続けています。
また、この水族館には東京湾や学校周辺の近港で泳いでいた魚を中心に、天然記念物である「ミヤコタナゴ」などの珍しい魚も展示されています。
▲全国でも珍しい、公立小学校敷地内にある海水水族館「まかどシーマリンパーク」。平日9時~17時と、4月〜11月までの第4土曜日の9時30分~11時30分までは、一般向けに開放されています。(入場無料。お越しの際は職員室にお声がけください)
▲「まかどシーマリンパーク」館内
▲映画でおなじみの「カクレクマノミ」(写真下段左)や天然記念物に指定されている関東地方の一部に生息する小型淡水魚「ミヤコタナゴ」(写真下段右)。ちなみにこの「ミヤコタナゴ」は神奈川県内において、最後の生息地でもあった権田池という場所が埋め立てられてしまうときに保護されたものの子孫なのだとか。
横浜市立間門小学校〜周辺マップ
タッチングプール当日の様子
今回で第18回を迎える「タッチングプール」は”生き物と環境”をテーマに、間門小学校と協力をし、授業参観日に実施されました。
校内中庭にある噴水池に海水を張って水槽を作り、その中で魚と直に接する、メインのタッチングプールの他、タライの中にいる海洋生物を眺めたり、あるいは触れあったりする「たらいコーナー」、そしてボランティアスタッフに生き物の生態系などを学ぶ「水槽展示コーナー」の3つがあり、当日は、各学年ごとに順番で3つのコーナーを回り、授業が終わると、午後には一般向けに全てのコーナーが開放されました。
▲どのコーナーでも毎回、体験学習を始める前に、とても元気の良い挨拶が行われていました。
▲こちらは「たらいコーナー」
▲地元のボランティアスタッフの説明や諸注意を聞いてから、海の生物とふれあいます。
▲ウニやナマコにヒトデそしてウミウシやアメフラシなどの生物を眺めたり実際に触れあいます。児童達からは、「ウニの棘って思ってたよりも柔らかい感じがする!」といったような、直に触れあうことでしか分からない感想が聞こえてきました。
▲こちらは「水槽展示コーナー」。今回は主に「深海」についてのお話や、問題が出されていました。児童達も「深海」についての話に興味津々!
▲手作りのボード。
▲いきなりですが、こちらの問題分かるでしょうか……?
▲正解はこちらです!
▲深海に住む生物
▲メインの「タッチングプール」
▲「タッチングプール」内には、ヒトデ、カワハギ、エイ、ナマコなど様々な海の生物が放たれており、児童達は足首くらいまでつかる水槽の中で、海の生き物たちと自由に楽しく触れあっていました。
▲「タッチングプール」内に放たれていた「ドチザメ」。サメの一種ですが、性格は非常におとなしく、人を襲う危険性もありません。
▲この後、「タッチングプール」は一般向けに開放され、児童だけではなく、地域住民と一緒に楽しみながら、無事、第18回目が終了しました。
インタビュー〜アクアミューズFC・四ツ車敏章さん
▲アクアミューズフレンドリークラブ・四ツ車 敏章さん
Q:「タッチングプール」を主催する「アクアミューズフレンドリークラブ」が出来たきっかけを教えてください。
「今から約20年ほど前、3年間ほど、この間門小学校の水族館が閉館していた時期があったのです。施設の設備が故障したのも原因の一つですが、水族館が閉館に追い込まれたもう一つの理由として、水族館の手入れが教師の皆さんの負担になっているということが分かりました。そして水族館が再開するにあたり、その負担を少しでも軽減できるよう、いわば私達地域住民が、教師の皆さんを後押しする応援団のような立ち位置で水族館の手入れの手助けをしていこうというのが、アクアミューズフレンドリークラブが発足したきっかけでした」
Q:では、「タッチングプール」ができたきっかけを教えてください。
「タッチングプールは、先ほどお話しした、教師の皆さんを手助けするという活動を、より多くの人に知ってもらう為に始めたというのがそもそものきっかけです。つまり一番最初は、この活動を周知するための呼び水的な役割だったのです。しかし、間門小学校の水族館管理のお手伝いをしていく中で、こんな立派な水族館があるのに、なぜ間門小学校の児童だけしか見れないのか、誰でも分け隔て無く、例えば、近隣小学校に通う児童にも来てもらっても良いのではないかという思いがわき始めました。そこから、放課後に水族館を一般向けに開放したり、あるいは直に生き物と触れあってもらおうと、タッチングプールを本格的に始めるようになりました」
Q:約20年間に渡って「タッチングプール」を続けることができた秘訣はありますか。
「子供達に環境教育を学んでもらう場所として確立しつつあるタッチングプールですが、根底にあるのは、子供達だけではなく、イベントを提供する側も楽しめるようにしていこうという思いがあります。つまり参加する側も提供する側も、タッチングプールに関わることでどちらにも自分の中に何かを学び取ることが出来る”共育”をしていけるような場にしようと心がけています」
Q:これからの活動について教えてください。
「今日のイベントでも間門小学校を卒業したばかりの中学生など、若い年代のボランティアスタッフが活躍してくれましたが、今後は彼らがどんどん主役にまわって欲しいですね。組織の一番恐いことは”硬直化”です。毎年毎年決まったメンバーで、決まったことをやっていたら何も学ぶものがなくなってしまう。理念は大事ですが、手段は時代によって変わっていくと思います。会議の場でも僕はほとんど自分の意見は言いません。若い人たちのアイデアを現実のものするにはどうすればいいかを考えるのが自分たちの役目です。なので若い方々に”今年失敗しても来年良くすればいい”という考えで、色んなことに挑戦してもらいたいです。目先の結果を求めるのではなく、本質を見逃さないようにしたいですね」
ありがとうございました。
▲現在中学一年生。間門小学校卒業後、初めて「タッチングプール」にスタッフとして関わったそうで、感想を聞いたところ「疲れたけど、とてもやりがいを感じた。在学中は魚が苦手だったけど、今日、在校生と一緒にサメを触ることが出来て嬉しかった。自分が卒業した学校に地域の方々がきて、みんな笑顔で帰って行ったので、なんだか誇らしい気分になった」というような感想が次々に飛びだした。最後に来年も参加しますか?と質問したところ、三人から「是非参加したいです!」と元気な返事が返ってきた。
▲イベント当日、「タッチングプール」に参加した生徒の保護者にも感想を伺ったところ「他の学校では経験できないことなので、私にとっても子供にとっても貴重な体験でした。また、こういう環境教育のイベントも、親が興味がなかったら子供を連れて行かないと思うのですが、学校の授業参観に組み込まれているので、親も子も必然的に参加しなければなりません。そういった意味で、間口が広がっているので、とても良いと思います」と語ってくださいました。息子さんの「こうせい」くんも「タッチングプール」に入った当初は、怖々していましたが、次第に魚との距離も縮まり、最後は友達と一緒になって楽しんでいました。
インタビュー〜間門小学校校長・前田 隆さん
▲間門小学校校長・前田 隆さん
Q:「タッチングプール」について、生徒さんの反応はいかがでしょうか。
「普段なかなか触ることが出来ない海の生物と触れあっているときの児童達は、いつも以上に目を輝かせ、とても生き生きとした表情をしている印象を持ちました。海の生き物をじっと観察するコーナーや、実際に触れあえるコーナーなど、各コーナーに特徴があるので、児童達が飽きることなく、常に集中している印象も受けますね」
Q:普段の学習のなかで、水族館を取り入れた授業は行っていますか。
「本校として、これだけの規模の水族館とその良さを、いかに教育現場に取り入れていくかというのは、慎重に吟味していくことであり、若干の課題があるのですが、昨年度は図工の時間のなかで、水族館を題材にした絵を描くという授業を取り入れました。これは後から気づいたのですが、魚は花や風景のように止まっていないので写生が出来ないのです。ですので、児童は常に動き続ける魚の特徴を捉え、あとは自分の想像力を働かせながら描いていくしかないんですね。授業が終わり、児童が描いた絵を見たのですが、どの絵も力強さがあり、イメージ性に富んでいました。また、その絵をタッチングプールのポスターに取り入れるという試みもしました。子供にとっては自分の描いた絵が街の中に貼られるので、嬉しいという気持ちと、地域の中で自分は生活しているんだという実感にも繋がると思いますし、逆に街の人にとっては、間門小学校の児童が描いた作品ということで、児童をより身近に感じてくれるのではと思いました。そしてもう一つあるのですが、タッチングプールの前に個別級(特別支援学級)の児童が、豆腐を握って感想を言い合うといったような授業をしました。どういうことかと言いますと、木綿豆腐や絹ごし豆腐、玉子豆腐などを触った時の感触を言葉に表す学習をした後、タッチングプールに行って魚と触れあい、その後感想文などを書いてもらうと、事前に感触に対しての語彙力が身についているので、非常に豊富な言葉が出てくるんです。これはとても素晴らしい学習だと感じましたね」
Q:最後にタッチングプールの自慢できるところを教えてください。
「これは単なるイベントではないと思っています。教育的な価値はもちろんですが、学校と地域の横の繋がりをより強いものにしていきながら、時の流れの中で、親や子供、先輩後輩などの世代間を繋げていく、非常に重要なツールであり、我が校の誇りであると感じています」
ありがとうございました。