ぶどうとワインの町『勝沼』散策
ぶどう畑を渡る甘い秋風を頬に感じながら、出来立てのワインを片手にゆっくりと散歩が楽しめる、ワイン好きにはたまらない土地、山梨県は「勝沼」を散策!
ワインの季節到来である!毎年11月の第3木曜日(今年は11月19日)は『ボジョレー・ヌーヴォー』の解禁日であり、それに伴う新酒のPR活動やイベントも各地で盛んになっている。さらにクリスマスから年末にかけては様々なキャンペーンなどで大いに盛り上がることだろう。
そんなことから、『ボジョレー・ヌーヴォー』を酒店やインターネットで購入したり、レストランなどで楽しむのももちろんいいが、せっかくワインの季節であり、また絶好のドライブシーズンでもあるのだから、ちょっと遠出をしてワインの産地に足を運び、実際に試飲したり、ワイナリーの方の話を聞いたりしながらお気に入りのワインを選んでみるのも楽しくはないだろうか?
では「何処に行こうか?」ということになるのだが、ところで「ワインの産地」と聞かれて真っ先に思い出すのはどこだろう?北海道の十勝、兵庫県の神戸、焼 酎でおなじみの南国宮崎県にも綾、都農、五ヶ瀬などがある。しかしワインの歴史と醸造実績から考えれば、やはり国内醸造量の25%に値する年間 10,000klのワインを醸造しており、日本におけるワイン醸造の先駆者達を排出した山梨県甲州市だろう。
特に「ぶどうとワインの町」として有名な『勝沼』は日本国内ではじめてワインの醸造を行った土地というだけに、1877年に設立された「日本最古のワイン会社」を継承する『メルシャン勝沼ワイナリー』をはじめ、30軒以上ものワイナリーが存在し、360°ぶどう畑にかこまれた小高い丘の上には『ぶどうの丘』という町営の施設があり、その施設では美しい甲府盆地の風景を見渡せるばかりか、施設内にあるワインカーヴには、甲州市推奨の約180銘柄・2万本のワインが揃っており、それらの試飲も可能なのである。またワインに関する歴史資料館や、中央本線のトンネルをそのまま巨大なワインカーヴしてしまった『勝沼トンネルカーヴ』といったちょっと変わった観光スポットもあるし、町のいたるとこで「○○ワイナリー」「ぶどう狩り」といった看板を見かける……。ふと「勝沼を流れる川は全てワインなのではないか?」と思えなくもないくらいである。
そこで、今回のこの『旅レポ』では、ぶどう畑を渡る甘い秋風を頬に感じながら、出来立てのワインを片手にゆっくりと散歩が楽しめる、ワイン好きにはたまらない「勝沼散策」の模様を紹介したいと思う。
(レポート:松田秀人)
ぶどうの丘
URL:http://www.budounooka.com/
メルシャン勝沼ワイナリー「シャトーメルシャン」
URL:http://www.chateaumercian.com/winery/
メルシャン株式会社
甲州市(サイト内『観光:ぶどうとワインのこだわり情報』)
URL:http://www.city.koshu.yamanashi.jp/koshu/
甲州市観光協会「ぐるり甲府市」
URL:http://www.koshu-kankou.jp/index.html
勝沼周辺マップ(ぶどうの丘・シャトーメルシャン)
日本のワイン造りは勝沼から
※『極上のワインを探しに』(勝沼ワイン協会)パンフレットより抜粋。
ワインの歴史
日本では、約1300年ほど前から山梨県勝沼の地で甲州ぶどうが栽培されるようになり、ワイン醸造は「文明開化はワインから」を合い言葉に明治3年甲府の山田・託間氏らによって始められ、明治10年には勝沼の2人の青年がフランスに渡ってワイン醸造技術を学び、山梨のワイン醸造は一気に広がりました。しかし当時は、欧米と比較して食生活の違いなどからワインは飲まれず、甘味ぶどう酒の時代がしばらく続きました。その間山梨のワイン醸造家は「ワインが飲まれる時代が必ずくる」ことを信じ、ひたすらぶどうからワインを造り続けてきました。こうした努力が現在の甲州を中心とした「勝沼のワイン」として花開いたのです。
明治10年、留学生がフランスへ
日本にワインが初めて入ったのは、安土桃山時代と言われていますが、実際に本格的な醸造が始まったのは、明治になってからのことでした。明治10年、祝村(現甲州市勝沼町)の有志が集まり、大日本山梨葡萄酒会社を設立。2人の青年を本場フランスへ派遣しました。高野正誠(当時25歳)と土屋龍憲(当時19歳)は、技術を習得して、日本のワイン造りの先駆者となりました。
注目される甲州種ワイン
日本の代表的な白ワインといえば、甲州種ぶどうを原料として醸造した”甲州種ワイン”。世界中に多数ある原料ぶどうから探ってみても、甲州種ぶどうは日本の山梨県内だけに分布し、甲州種ワインの生産量も県内の50%以上を勝沼で醸造しています。赤ワインよりも難しいといわれる白ワインの醸造技術は、年々レベルアップが図られ、最近では世界的にも権威のあるワインコンクールにおいてたびたび上位入賞を果たすなど、世界のワインシーンにおいてもKOSHU(甲州)の名がアジアのワインとしてばかりでなく、欧米のぶどう品種と同じ土俵に頭角を現すようになってきました。甲州種ワインは勝沼の風土文化の所産であると同時に、寿司や天ぷらなどの和食に合うお酒としても、いままさに世界的な注目を集めはじめています。
移動~横浜から勝沼へ
▲まずは第三京浜を東京方面に。それにしても空が青い!今日は日曜、これだけの天気だから、ETC割引の効果を考えそれなりの渋滞を覚悟して出発したのだが「玉川料金所」の付近はむしろガラガラで気がぬけてしまったぐらいだった。
▲環八(都道311号)から甲州街道(国道20号)へ、思っていたより順調。
▲調布ICから「中央自動車道」へ!するとすぐに「渋滞」「事故車線規制」の文字が目に飛び込んでくる。
▲事故の影響から「中央自動車道」に入ってすぐに渋滞がスタート。まったく進まなくなってしまった……。遠くに富士山が見えるのがせめてもの救い。
▲中央自動車道「八王子料金所」は毎度のことながら渋滞。
▲八王子料金所を過ぎて「小仏トンネル」もまだまだノロノロが続く……。まあ相模湖付近を過ぎるまでの辛抱である。それにしても圧倒的に車の台数が多い。やはりETC割引の効果だろう。
▲談合坂付近からやっと快適に!
▲通常の倍の4時間30分かけて勝沼へ到着。
▲中央自動車道「勝沼IC」からぶどう畑が広がる勝沼町内を走ること約10分。
▲小高い丘の上に町営の施設『ぶどうの丘』が見えてくる。
▲「ぶどうの丘」駐車場前風景
ぶどうの丘
「ぶどうとワインの町『勝沼』散策」。最初にやってきたのは、勝沼町のシンボルといえる『ぶどうの丘』。敷地内には甲州市内の総合案内所として機能いているインフォメーションホールをはじめ、地場産品を購入することができる売店。また甲府盆地、南アルプスが見渡せる展望ワインレストランやバーベキューハウス、さらに甲府盆地の大パノラマを眺めながら高アルカリ泉質の天然自噴温泉を楽しむことができる『天空の湯』、全室天然温泉(源泉)バストイレ付の宿泊施設、美術館(喫茶)、宴会場、会議室、直売所などがある。
▲正面入り口
▲エントランス
ぶどうとワインをイメージした愛の泉が印象的。夜は美しくライトアップされる。
▲『ぶどうの丘』からの風景
▲展望ワインレストラン
豊富なボトル&グラスワインよりお好みのワインを選び、軽食からフランス料理のフルコースと合わせて楽しむことが出来る。大きな窓からのぞむ日中の風景も素晴らしいが、夜景もまた格別である。
▲ワイン売店
審査会にパスした高品質のワインから、ジャムやお菓子などの地場産品が並ぶ売店。ちなみにワインは電話及びサイト内ショップからも購入することができる。また売店の一角には甲州市内の総合案内所もある。初めて勝沼を訪れる方などは、ここで観光情報を入手するとよい。
▲施設内直売所
ワインカーヴ
『ぶどうの丘』の中でも特に大人気なのは、甲州市の厳しい審査会に合格した約180銘柄・2万本のワインが貯蔵されてる地下のワインカーヴ。ワインカーヴ入り口で特製タートヴァン(試飲容器)を購入(1,100円)すれば自由に試飲することができるため、じっくりと飲み比べができる。
▲売店で専用の試飲容器「タートヴァン」(左)を1,100円で購入すると、全てのワインを試飲できる。
▲売店会計所横の入り口から階段を下り地下のワインカーヴへ。
▲今回の取材にご協力いただいた雨宮さん(左端)。右は取材に同行したワイン好きの私の友人夫婦。
▲180銘柄・2万本のワインが貯蔵されてる地下のワインカーヴ
▲気に入ったワインを入れるカゴを持って、いざ試飲。
▲2万本のワインが貯蔵されてるだけあって、カーヴ内はとても広い。
▲勝沼中のワインを試飲できることから、お気に入りのワインをみつけたら、直接ワイナリーに足を運ぼうと考えている方には最適な施設である。もちろん、そのまま購入することも可能。(公式サイト内からのネット販売もある)
▲ワインカーヴ内にはたくさんの歴史的資料が展示されている。上記で紹介した、明治10年にフランスへ留学した高野正誠と土屋龍憲の写真も展示されている。
甲州市勝沼『ぶどうの丘』
住所:山梨県甲州市勝沼町菱山5093
電話:0553-44-2111
FAX:0553-44-2341
URL:http://www.budounooka.com/
大日影トンネル遊歩道
『ぶどうの丘』の東に車で10分たらずのところにあるのが、中央本線『勝沼ぶどう郷駅』に隣接した『大日影トンネル遊歩道』。明治29年に始まった中央本線八王子駅~甲府駅間建設に伴い掘削されたのがこのトンネルで、明治36年の開通以後は、それまで馬の背にゆられ3日間かかっていた東京までの道のりが、わずか半日に短縮し、一度に運ぶことができる量も飛躍的に上がったことから、ぶどうやワインの輸送で近年まで大いに活躍したそうである。
平成9年、すぐ隣の『新大日影トンネル』が上下線開通となり、『大日影トンネル』はその役目を終える。そして平成17年、JR東日本から旧勝沼町(現在は合併に伴い甲州市となる)へ無償譲渡され、平成19年に遊歩道として整備された。
▲『大日影トンネル遊歩道』は中央本線『勝沼ぶどう郷駅』に隣接している。目の前に見えるのは『ぶどうの丘』。
▲駅には『大日影トンネル遊歩道』までの誘導表示があるのですぐにわかる。駅に向かって右側奥に駐車場がある。
▲『勝沼ぶどう郷駅前公園』には、電気機関車「EF64-18」が展示されている。この電気機関車は昭和41年に製造され、平成17年の引退まで、主に貨物車を牽引して中央本線を走っていたそうで、単線当時の中央本線を知る貴重な機関車だそう。平成18年にモニュメントとして設置されたとのこと。
▲駅からトンネル入り口まで約300m。
▲トンネル入り口。右が『大日影トンネル』。左が現役の『新大日影トンネル』。
▲トンネルの全長は1,367km。平成9年当時のまま残されているレールの脇を徒歩で約30分ほど歩くとトンネルの反対側(深沢口)に出ることができる。
【全長】1,367.80m
【幅】3.57m~3.74m
【高さ】4.90m
【起工】 明治30年(1897)
【貫通】 明治35年(1902)
【開通】 明治36年(1903)
【電化】 昭和6年(1931)
【複線化】昭和43年(1968)下り線専用トンネルとなる
【廃線】 平成9年(1997)新トンネル建設に伴い閉鎖
→旧勝沼町に無償譲渡
【遊歩道化】平成19年3月工事完成
▲トンネル内の煤は、昭和6年に電化されるまで走っていた蒸気機関車の煙突から排煙されたものだそう。
▲トンネル内には、建築風景や貫通当時の様子など、勝沼の歴史を彷彿させる昔の写真がたくさん展示されている。
▲保線作業員のための待避所は大小あわせて合計36箇所ある。現在は大きな待避所にベンチが設置され、休憩所となっている。ちなみにトンネル内にトイレは設置されていない。
▲『大日影トンネル』で使用されているレンガは全て牛奥村(現甲州市)で造られたもので、英国人技師の指導により建設されたことから、レンガの積み方が、一段ごとに縦横交互に積まれる「英国式」が採用されている。
▲深沢口寄りには、全国的に珍しいトンネル内水路「開渠水路」が見られる。付近から湧き水が多く排出されるために設けられたもので、現在も水が流れている。
▲奥に『勝沼トンネルカーヴ』が見える
大日影トンネル遊歩道利用案内
通行時間:9:00~16:00
通行料金:無料
所用時間:片道約30分(徒歩)
☆お問い合わせ
甲州市観光産業部観光課
住所:山梨県甲州市大和町初鹿町1693-1
電話:0553-32-2111(代)
勝沼トンネルカーヴ
中央本線『勝沼ぶどう郷駅』から『大日影トンネル遊歩道』を約30分かけて通り抜けると、目の前に明治36年に建造された、レンガ積みの『旧深沢トンネル』跡がみえる。
▲勝沼トンネルカーヴ
現在このトンネルは『勝沼トンネルカーヴ』として、ワイナリーはもちろん、全国のレストランや飲食店をはじめ、個人的なワイン愛好家達に低価格で広く活用してもらい、ワイン産業の活性化を図る施設として活躍をする傍ら、『大日影トンネル遊歩道』と合わせて勝沼の観光スポットとしても注目されている。
▲手前に観光案内所があるので、カーヴ内見学を希望される方は、こちらで受付けを行う。
ちなみにトンネルワインカーヴ内は、年間温度が6度~14度、湿度が45%~65%と、ワインの熟成に適した環境が保たれており、1ユニット(パーソナルラック)に720mlボトル換算で300本が収容可能な設備が322ユニット設けられており、1ユニット(オーナー)ごとに施錠もできるそうである。
気になる保管料だが、これが驚くなかれ月額2,500円(1本あたり約83円)と格安!興味のあるかたは上記の『ぶどうの丘』に問い合わせいただきたい。
勝沼トンネルカーヴ案内所
住所:山梨県甲州市勝沼深沢3602-1
電話:0553-20-4610
※カーヴ内見学希望者は入り口付近『観光案内所』まで
※貯蔵等、詳しいお問い合わせは上記の『ぶどうの丘』まで
ぶどう畑が広がる町の風景
メルシャン勝沼ワイナリー
この日最後に訪れたのが、『メルシャン勝沼ワイナリー』。勝沼は『メルシャン』の前身である大日本山梨葡萄酒会社(1877年設立)の創業地であり、国産ワインの発祥の地でもある。
ちなみに2009年11月4日からは10億円を投じリニューアル工事が開始され、2010年8月からは新たに『シャトー・メルシャン』と改称し、機能性、生産性、そして専門性の高い見学ツアーを受け入れるなど、あらゆる面でのグレードアップが図られるそうである。
※詳細は下記の公式サイトニュースリリースを参照↓
URL:http://www.mercian.co.jp/company/news/2009/09051.html
▲この日は「シャトー・メルシャン ハーベスト・フェスティバル 2009」が開催されており、様々なイベントが開催されていたため、ワイナリーはたくさんの観光客で賑わっていた。
▲そんな中「ブドウ踏み体験」の会場で、お会いした「ワイン娘」日高 瞳さんはなんと宮崎人!同じ宮崎人のよしみということから、時間外だというのに「ブドウ踏み」の実演を披露してくれた。
▲こちらは「ワイナリー・ツアー」でお世話になった前田さん(左)。
▲「ワイナリー・ツアー」では「ぶどう破砕・圧搾場」→「発酵・醸造場」→「ワイン熟成庫」の順で見学をさせてくれる。所用時間は約20分。参加無料だが、10名以上の場合は予約が必要。
▲売店には近年国際コンクールなどで高い評価を受けたワインからユニークなものまで非常にたくさんの種類(さすがメルシャン)のワインが並んでいる。また町ではあまり見かけないような、様々なワイン関連グッズなども販売しているから見ているだけで楽しくなる。
ワイン資料館
見学受付時間:9:00~16:00
入場無料
見学希望される方は、メルシャン勝沼ワイナリー(下記)受付に申し出てください。
※ワイナリーの都合により、ご希望の日程に沿えないことがございます。
予めご了承ください。
明治37年に「宮崎第2醸造場」として建設された日本最古の木造ワイン醸造場をそのまま資料館にしたもの。
館内には、上記で紹介したワイン醸造技術を学びにフランスに留学した高野正誠、土屋龍憲のスケッチをもとに製作され、実際に使用されていたワイン醸造器具をはじめ、高野家の蔵から発見された日本最古のワインや、過去にメルシャンが生み出してきたワインのラベル等々、国内におけるワインの歴史を体感できる様々な資料が展示されている。
ちなみに資料館内部に置かれた樽は現在もワイン貯蔵に使用されているそうである。
メルシャン勝沼ワイナリー
住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎1425-1
電話:0553-44-1011
FAX:0553-44-0428
URL:http://www.chateaumercian.com/cm/winery/
メルシャン株式会社
URL:http://www.mercian.co.jp/
勝沼散策は山梨名物ほうとうで〆
▲帰りに地元の観光ぶどう園『三沢園』でぶどうを購入。
▲帰路は中央自動車を使わず、国道20号線を使い、途中『道の駅甲斐大和』内にある『レストラン・けやき』で、これからの季節にぴったりな、南瓜と味噌からなるスープがたまらない、野菜がたっぷりの山梨名物「ほうとう」を食べ、私としては約10年ぶりの勝沼散策を終えた。
今回はETC割引を甘くみたせいか?勝沼到着が大幅に遅れてしまい、ずいぶんと時間をロスしてしまったが、もう少しだけ早く出発し、午前10時頃に勝沼に到着できるようなスケジュールであれば、今回のルートプラス、さらにワイナリーの2~3軒はまわれたかもしれない。
とはいいつつ、勝沼には30軒以上ものワイナリーがあるのだから、もしワイナリーめぐりが目的であれば、どれだけ頑張ってみたところで、1日ではぜんぜん話にならないのだが……。
とにかく特にこれといった目的もなく、散歩感覚でふらりと訪れても、町の歴史や文化自体がぶどうとワインで出来上がっているようなものだから、ワインが好きな人にとっては、常になにかしらの新しい出会いを提供してくれる、うれしい町である。逆に問題点といえば、仲間うちで誰が運転をするのか?で若干もめるということぐらいだろう。