『江ノ電』各駅下車〜全駅周辺散策
「古都鎌倉と湘南江の島を走り続けて100余年」〜『江ノ電』全15駅とその周辺のみどころを紹介。
現在私が暮らしている宮崎県北部にも、数年前までは『TR高千穂鉄道』というローカル線が走っていた。しかし平成17年の台風14号がもたらした暴風雨により線路が寸断され、その影響から全面廃線となってしまった……。九州の中央部から日向灘に注ぐ美しい『五ヶ瀬川』に沿って走るルートには、神話の里『高千穂町』をはじめ、水面からの高さが東洋一を誇る『高千穂鉄橋』や、駅構内に温泉がある『日之影温泉駅』など、山深い宮崎県北部の大自然を満喫できることから、地元の人々だけでなく多くの観光客からも愛されていた。それだけに、もう二度とその姿を見る事ができないのはとても残念である。
一方、私の生まれ故郷である神奈川県にも、全国にたくさんのファンを持つ『江ノ電』が走っている。どこまでも続く青い水平線と、個性的でお洒落な民家や店舗の壁、さらに歴史的建造物が点在する街並みをゆっくりと走り抜ける『江ノ電』の車窓からの風景は、目の前にそびえる切り立った峡谷と深い森の緑の中を走っていた『旧TR高千穂鉄道』とはまったく正反対である。
古都『鎌倉』から「日本百景」に指定されている『江の島』を経由し、『藤沢』まで湘南海岸に沿って全長10kmの区間を34分間かけて走る『江ノ電』の歴史は「開業1902年(明治35年)」と古く、沿線には『江ノ島』をはじめ、『由比ヶ浜』『稲村ヶ崎』『七里ゲ浜』『鵠沼』といった人気の海水浴場があることから、シーズン中は非常に賑わっている。
そこで今回の『旅レポ』では、「江ノ電の事をよく知らない」という九州地方の方にも、私の故郷神奈川県が誇る『江ノ電』を知ってもらいたいと考え、できれば「関東方面に足を運ばれたさいには、ぜひ乗車していただき、横浜の港とは一味ちがう美しい神奈川の風景を満喫していただきたい」という想いを込めて『江ノ電各駅下車〜全駅周辺散策』なるレポートを作成した。
距離的には『旧TR高千穂鉄道』の延岡-高千穂間50.0kmに比べ、『江ノ電』の鎌倉-藤沢間10kmは確かに短いかも知れないが、その道中の内容は宮崎の大自然に負けず劣らず、バラエティ豊かで面白い。たとえば民家の壁をかすめるように走っていたかと思えば、湘南海岸と平行して走ってみたり、一部の区間などは路面電車のように、街中の道路の真ん中を自動車と並んで走ったりもし、『江ノ電』ならではの風景が随所に見られる。特に『稲村ヶ崎駅』から『鎌倉高校前駅』(下画像参照)までの海沿いを走る区間の眺めは素晴らしい。
(取材・文:松田秀人)
江ノ島電鉄株式会社
→時刻表、運賃・料金、車両図鑑、イベント情報、その他
URL:http://www.enoden.co.jp/
社団法人鎌倉市観光協会
→鎌倉最新情報、グルメ、宿泊、ショッピング、駐車場等
URL:http://kamakura-info.jp/
藤沢市観光課・社団法人藤沢市観光協会(江の島観光案内所)
→湘南・江ノ島最新情報、グルメ、宿泊、ショッピング、駐車場等
URL:http://www.fujisawa-kanko.jp/
「江ノ電」鎌倉駅→藤沢駅エリアマップ
「江ノ電各駅下車〜全駅周辺散策」は古都『鎌倉』からスタート。
▲ポイントマークは、今回のレポートのスタート地点「江ノ電・鎌倉駅」と、ゴール地点「江ノ電・藤沢駅」です。
江ノ電 運賃表
スタート駅は『鎌倉』。ここで乗車券を購入。
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【のりおりくん詳細】
URL:http://www.enoden.co.jp/toku_ticket/noriori.html
江ノ島電鉄株式会社
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(その1) 鎌倉駅
徒歩10分〜20分圏内には有名な『鶴岡八幡宮』をはじめ、約40近くものお寺や神社があり、その道中には飲食店や土産物屋、雑貨屋など、様々な店舗が賑やかに建ち並ぶ『若宮大路』『小町通り』『御成通り』がある。様々な角度から散策を楽しむことができるので、あまりゆっくりしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。(下記参照)
なんといってもタクシーと一緒に人力車が並んでいるのはなんとも鎌倉らしい風景である。また散策の範囲を広げるために欠かせないレンタルサイクル(レンタルサイクル鎌倉駅西口)も、『江ノ電鎌倉駅』の駅前『西口広場』右側にある。
レンタルサイクル鎌倉駅西口
営業時間:9:00〜19:00
(原則年中無休)
料金等
☆電動アシスト自転車:600円(平日1時間)、3,000円(平日1日最大)、700円(土日祝日1時間)、3,500円(土日祝日一日最大)
☆自転車/3段ギア付:500円(平日1時間)、2,000円(平日1日最大)、600円(土日祝日1時間)、2,500円(土日祝日一日最大)
☆リトルモア/子供乗せ:700円(平日1時間)、3,500円(平日1日最大)、800円(土日祝日1時間)、4,000円(土日祝日一日最大)
まずは『江ノ電』に乗車する前に、鎌倉散策の定番コース『小町通り』をぬけて『鶴岡八幡宮』までぶらりと歩いてみることにした。寄り道をせずに歩き通せば約10分ほどで『鶴岡八幡宮』に到着するが、『小町通り』には誘惑が多いから、10分でぬけるのは中々難しいだろう。帰りは『鶴岡八幡宮』の正面からそのまま『若宮大路』を通って『江ノ電・鎌倉駅』へ。
小町通り
『JR鎌倉駅』東口バスターミナル左奥の赤い鳥居が『小町通り』の入り口。『鶴岡八幡宮』の正面から延びる『若宮大路』の西側に平行する通りである。ところどころに『若宮大路』に繋がる路地がある。とにかく新旧様々なジャンルの店舗がたくさん並んでいるので、食べ歩きやショッピングだけでもかなり時間が潰せる。
鶴岡八幡宮
源頼朝が創建したことで有名な、日本三大八幡宮のひとつ『鶴岡八幡宮』。境内は国の史跡に指定されており、創建以来、今も鎌倉の象徴として親しまれている。境内には建造物だけでなく、工芸品や古文書など、国宝・重要文化財に指定された歴史的資料が点在してる。ちなみに7月下旬頃〜8月上旬にかけて『源平池』には紅白の蓮が咲き誇る。
若宮大路
鎌倉市由比ヶ浜の国道134号線「滑川交差点」から『鶴岡八幡宮』に通じる約2kmの道。鎌倉観光では一番メインとなる歴史街道で「日本の道100選」にも指定されている。通りの両側には、鎌倉を代表する名店が並んでおり、中央の一段高い参道「段葛」はサクラ並木になっている。参道には三つの鳥居があり、由比ヶ浜側から一の鳥居、二の鳥居、三の鳥居と名づけられている。
社団法人鎌倉市観光協会
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(その2) 和田塚駅
1面1線単式ホームの無人駅。鎌倉時代の武将「和田義盛」をはじめ、その一族の墓があると伝えられていつことから『和田塚』という駅名がついている。『鎌倉駅』側改札から、海側に歩いていく途中には「和田一族戦没地」の碑が立てられている。
(その3)由比ヶ浜駅
別荘族による海水浴文化が明治時代より根付いているという、歴史ある海水浴場『由比ヶ浜』の最寄駅である。『和田塚駅』同様の単式ホームながら、人気海水浴場があるため、無人ではない。また歴史ある別荘地だけあって、江ノ電『由比ヶ浜駅』から海水浴場までの間には、お洒落な民家や店舗がゆったりと建ち並んでいるため、快適なリズムで歩くことができるのがいい。海水浴場はシーズンであっても、なんとなくのんびりできる雰囲気があるため、たとえ泳がなくともそこにいるだけで心地よい。ちなみに『由比ヶ浜』という名前の由来については、助け合いを意味する「ゆい」からきた説と、過去にこの地を治めていた「由井氏」からくる説とがあるそう。
(その4)長谷駅
「鎌倉大仏」で全国的に有名な『高徳院』や、美しい庭園を楽しむことができる『長谷寺』の最寄駅である。単式ホームが多い『江ノ電』だが、ここは相対式ホームとなっており、『鎌倉駅』から『藤沢駅』に向かうホームにおりた場合、改札口へは構内踏切を渡らなければならない。盆や正月など、特に観光客が多い時期には南側の臨時出口が使用されるが、通常は使用されない。『鎌倉駅』同様に、改札をでると人力車がならんでいる。
長谷寺
正式名称は『海光山慈照院長谷寺』と号し、長谷観音と通称される奈良時代(736年)開創と伝わる鎌倉有数の古刹。四季折々に表情を変える美しい境内には散策コースもあり、相模湾を一望できる展望所からの眺めも素晴らしい。『長谷駅』からは徒歩で5分弱。
高徳院・鎌倉大仏
「鎌倉大仏」で有名な『高徳院』(大異山高徳院清浄泉寺)。法然上人(1133〜1212年)を開祖とする浄土宗の仏教寺院。国宝である大仏の正式名称は「阿弥陀如来坐像」。総高は台座を含むと18.03mに及ぶ。創建750年余の歴史を持つ。ちなみに『長谷駅』からは徒歩で10分弱。
(その5)極楽寺駅
駅前の赤い郵便ポストが印象的な「関東の駅100選」に認定された単式ホームの『極楽寺駅』。ホームからは車椅子対応スロープが設置されている。『極楽寺』(霊鷲山感応院極楽寺)は鎌倉唯一の真言律宗の寺院で、ホームのすぐ上には茅葺きの山門がある。開基は北条重時。 開山は忍性(にんしょう)。国の史跡に指定された「極楽寺境内・忍性墓」をはじめ、重要文化財である五輪塔(忍性塔)などを見ることができる。
(その6)稲村ヶ崎駅
『長谷駅』同様、1面2線の島式ホームでホームと改札口が構内踏切でつながっている。駅員は常駐している。駅から徒歩ですぐのところに、黒い砂(鎌倉は砂鉄が多く取れることで有名)が特徴的な海岸が広がっている。国道から相模湾を望み、左手方向に目をやると『稲村ヶ崎』が見える。
▲由比ヶ浜と七里ヶ浜の間にある『稲村ヶ崎』(画像中央)
(その7)七里ヶ浜駅
海岸からすぐそばにある単式ホームの『七里ヶ浜駅』。目の前に住宅の壁がせり出しているため、少々圧迫感を感じる。日中は駅員がいる。駅からすぐのところにはサーフィンのスポットとして有名であり、「日本の渚百選」に選出されている『七里ヶ浜』がある。前の『稲村ヶ崎駅』から次の『鎌倉高校前駅』までの区間は、『江ノ電』と相模湾と国道が平行して走る風景が続くため「江ノ電ファン」のカメラマン達の姿をよく見かける。駅のそばには『七里ヶ浜駐車場』(国道134号沿い)という大きな駐車場が海岸沿いにあり、休日にはフリーマーケットなどが開催されているそうである。また『七里ガ浜』では平成13より、前記の『七里ヶ浜駐車場』に自家用車を停め『七里ヶ浜駅』から『江ノ電』を利用し、鎌倉方面に足を運んでもらうという「パーク&レールライド」というシステムが実施されている。その内訳は、自動車1台あたり1500円の料金に、5時間分の駐車料金と江ノ電七里ガ浜駅〜鎌倉駅、JR鎌倉駅〜北鎌倉駅間のフリー切符(1日有効)が2枚含まれている。(フリー切符の追加購入:大人1枚500円、小人1枚250円)
(その8)鎌倉高校前駅
上記の『極楽寺駅』同様、「関東の駅百選」に指定されている単式ホームの無人駅。車椅子対応スロープ有り。ここはなんといってもホームからの眺めが最高!開放感たっぷりのホームのベンチからは相模湾を一望でき、右手方向にははっきりと『江の島』を確認することができる。もちろんホームで記念撮影する観光客も多い。
(その9)腰越駅
1面1線単式ホームの『腰越駅』。日中は駅員がいるが夜間のみ無人となる。踏み切り位置とホームの関係から、他の駅と比べホームの長さが1両分短いため、車内では常時『腰越駅』での下車に関する注意事項がアナウンスされている。特徴的なのは、この次(藤沢方面に向い)の駅となる『江の島駅』までが併用軌道(道路上に敷設された軌道)になり、まるで路面電車のように道路上を走ることになる。また駅の近くには、源義経が兄の源頼朝に宛てた書簡「腰越状」が保管されているという『満福寺』があり、さらに『腰越漁港』では、鎌倉名物「しらす」の「引き網漁業」などが行われている。
(その10)江の島駅
「鎌倉-藤沢」間では最も大きい2面2線相対式ホームの『江の島駅』。車椅子対応スロープ有り。江ノ電本社の住所もここになっている。この駅も他の相対式ホーム駅同様、ホーム同士が構内踏切によって結ばれている。また構内にはとても丁寧につくられた『江ノ電ジオラマ』が展示されている。売店は改札口の外にあり、海岸までつづく道の左右には様々な店舗がずらりと並んでいる。
ちなみに『湘南モノレール』の『湘南江の島駅』は海岸とは反対方向に徒歩で約2分ほど。『小田急江の島線』の『片瀬江の島駅』へは海岸方向に徒歩5分少々。『江の島弁天橋』(橋長389m)を渡り島へ行くには、徒歩で約15分程度かかる。
『江の島弁天橋』を渡ってすぐ左側には『江の島観光案内所』がある。『江の島』をはじめ近隣観光の詳細はここで集めるのがよい。資料もたくさん揃っているし、係員の方も親切に教えてくれる。私もいろいろとお世話になった。
江の島
「神奈川県指定史跡・名勝」「日本百景」に指定されている湘南を代表する景勝地『江の島』。島の面積は0.38km2 、海岸線長が4km、最高標高60.4m。 島内には、長い歳月を経て波の侵食でできた『江の島岩屋』をはじめ、太平洋を一望できる『江の島展望灯台』や、レンガ造りの庭園『サムエルコッキング苑』、さらに『江の島神社』『江の島弁財天』『江の島大師』その他、いくつもの神社やお寺があり、道中には様々な飲食店や土産物屋などが点在している。島内には宿泊施設も充実しているし、天然温泉を楽しむことができるスパなどもあるから、もしたっぷりと時間がとれれば、ここで1泊していくのもいいかもしれない。とにかく内容が豊富なので、詳細は下記のサイト『いつでもおいでよ!藤沢市・湘南江の島』をご覧いただいきたい。
展望灯台・サムエルコッキング苑
明治時代中期のイギリスの貿易商サムエル・コッキング氏(1842〜1914年)が造った温室遺構が現在に残るレンガ造りの美しい庭園。そんな『サムエルコッキング苑』の中には、高さ59.8m、海抜119.6mの展望灯台がある。天候がよければ、富士山や大島、三浦半島を望むことができる。日没後は美しくライトアップされる。ちなみに『展望灯台・サムエルコッキング苑』は島のいちばん高い所にある。「展望灯台には行きたいけれど歩いて登る(石段を約20分)のは少々キツイ」という方は、屋外エスカレーター『江ノ島エスカー』(有料)を利用すれば楽々と登ることができる。
(11)湘南海岸公園駅
単式ホームの無人駅『湘南海岸公園駅』。その駅名とは裏腹に、最寄の海岸(片瀬西浜海水浴場)までは途中『境川』に架かる『西浜橋』を渡り徒歩で約10分ほどかかる……。ちなみに『片瀬西浜海水浴場』(境川)から『鵠沼海浜公園』(引地川)にかけての『湘南海岸公園』では様々なマリンスポーツやビーチスポーツなどのイベントも盛んである。
(その12)鵠沼駅
1面2線の島式ホーム、出口は線路をはさんで西・東にある。駅舎が地下にあり、ホームから出口までの間、一度地下に降りなければならない。駅員は常駐している。最寄の『鵠沼海岸』まで約1.2kmあるため、途中に坂などはないが、歩くと15〜20分はかかってしまう。ちなみに『鵠沼海岸』は様々なビーチスポーツ発祥の地として有名である。
(13)柳小路駅
単式ホームの無人駅『柳小路駅』。車椅子対応スロープ有り。ホームからすぐの西側に『鵠沼高等学校』が見える。基本的には住宅地。
(14)石上駅
単式ホームの無人駅『石上駅』。車椅子対応スロープ有り。上記の『柳小路駅』同様、周辺は住宅地である。次の『藤沢駅』へは歩いて行けるほど近いため、ホームの北側には『藤沢駅』周辺のデパートやオフィスビルなど背の高いビルの姿が見える。
(15)藤沢駅
『鎌倉駅』からスタートしたため、ここ『藤沢駅』が最後の15駅目となる。乗り場は『JR藤沢駅』の向かいにある『小田急デパート』の2階。改札口前の売店には様々な江ノ電グッズも置いてあり、『江ノ電の珈琲屋さん』では珈琲だけでなく、『玄米チーズカレーパン』『玄米チーズあんぱん』などのオリジナルパンや、人気の『うなむすび』(うなぎやゴボウが入っている焼きオニギリ/2個入りで390円)を購入できる。
取材を終えて
今回は午前9時頃より『鶴岡八幡宮』等、鎌倉散策をはじめ、スタート駅の『鎌倉駅』から各駅下車をし、途中『江の島』散策終了ごろから陽が傾きかけ、終点の『藤沢駅』に到着した時には、辺りも暗くなり、時計の針はちょうど午後7時を指していた。そんな中、ローカル線でありながら12分間隔運転というのが実にありがたかった。この「12分間隔」という数字からも、どれだけ『江ノ電』が愛されているかがわかる。
当初取材自体に10時間もかかるとは思わなかった。10km区間にある15駅とその周辺を撮影するだけなので、以前観光で利用した時の感覚から「もう少し早く終わるのではないか?」と思っていた。しかし実際にまわってみると、今まで気づかなかったものがいろいろと見えてきて、時間がかかってしまった。撮影をしながらではあるが、決してのんびり歩いていたわけではなく、どちらかといえばガツガツ歩き回り、自分なりにテキパキと動いたつもりだったが、終わってみれば10時間もかかってしまっている。それでも取り残しは多々あるし、撮影したのは風景や街並みだけで、人気店舗や注目商品などは一切取材していない。
『江ノ電』の路線距離は10km、これはかなり短い。ゆっくり走っているにもかかわらず、駅間は2〜3分だし、『鎌倉駅』〜『藤沢駅』間を途中下車しなければ34分でついてしまう。しかし、その間に詰っている内容は距離の何十倍にもあたるほどに濃い。だからどんなに素早く歩き回り、最低限の撮影だけを行っても10時間もかかってしまうのだ。特に『鎌倉駅』『長谷駅』『江の島』は見所も多く、沿線の各駅には個性的な店舗が点在しているからつい足をとめてしまいたくもなる場面も多かった……。
ちょっとした観光だけでも「どこかで一泊できる時間があれば」と感じるほどだから、海水浴やマリンスポーツ、ショッピング、グルメなどを楽しんでいたらもう何日あっても足りない。きっと「あと一日、もう一日」と滞在を延ばしているうちに、気がついたら住み着いている人も少なくないだろう。とにかくまる1日歩きまわったから、かなりいい運動になったと思う(苦笑)。
取材途中、『江ノ電』の先頭車両の一番前に陣取った小学生らしき男の子とその父親がこんな会話をしていた。
「お父さん、なんかこの電車すごく遅いよね……もっとスピードでないのかな?」
「もうずっと昔からこのスピードなんだよ。お父さんが子供の頃もこのくらいだったし」
「きっとモノレール(湘南モノレール)のほうが早いよ」
「この電車より早い電車はいっぱいあるけれど、これからもずっとこのスピードは変わらないんだよ」
「ふぅ〜ん……でももう少し早いと面白いんだけどな……」
「もっと早く走れたら江ノ電じゃなくなるよ」
『江ノ電』に乗っていると、何故だか自分も風景の一部になっているような気がして気持ちがいい。機会があれば、九州地方の方にもぜひ『江ノ電』の魅力を感じていただけたらとおもう。残念ながら『TR高千穂鉄道』はなくなってしまったけれど、時代が流れても『江ノ電』にはこれからもずっと、同じスピードで走りつづけてもらいたい。