ここちカフェ「むすびの」
別府市「鉄輪温泉」にある明治時代の元医院を改装したレトロ感あふれる空間で、蒸気が立ちのぼる温泉街の風景に浸かり「低温スチーム料理」や「手作りおやつ」を楽しみながら心地よく流れる時間を満喫☆
街のあちこちから湯けむりが立ちのぼる別府市屈指の温泉街「鉄輪(かんなわ)」。蒸し湯、足湯をはじめ、街中には様々な温泉施設が点在し、中には地域と密着した無料で利用できる温泉施設がある他、温泉の効果を利用した「地獄蒸し」や「お湯洗い」といった独特の調理方法があったりと、温泉がもたらすさまざまな文化が今も色濃く残っている地域です。
そんな温泉街の魅力に惹かれ、県外から移住してこられた方も多いそう!なにを隠そう、今回ご紹介する、明治時代に建てられた歴史ある元医院を改装してつくられたカフェ『ここちカフェむすびの』の店主の河野健司さんも、「鉄輪温泉」の魅力に惹かれ、県外から移住してきた一人なんです。
10年ほど前、仕事の関係で大阪から鉄輪温泉へ移り、業務の傍ら「鉄輪湯けむり倶楽部」でボランティアガイドをしていたとき、当時まったく機能していなかったこの建物をみつけ、その魅力に惹かれ思い切って改装。2011年4月にカフェとしてオープンされたそうです。
長い歴史を持った建物が醸し出す重厚なオーラと、素材まで自家製にこだわった、手作りの「ランチ」や「おやつ」の素朴な味わいは、まるで温泉のように、遠方から足を運ばれたお客様の心と体をあたため、優しく癒してくれます。
(レポート:中本望美)
ここちカフェむすびの
住所:大分県別府市鉄輪上1
電話/FAX:0977-66-0156
営業時間:11:30〜21:30(LO.21:00)
定休日:木曜日(祝日は営業)
URL:http://www.musubino.net
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周辺マップ
まずは別府市「鉄輪(かんなわ)温泉」をご紹介☆
湯のまち別府を代表する温泉街「鉄輪(かんなわ)地区」。鉄輪温泉は100℃近くある源泉が多く、源泉は「地獄」と呼ばれ、温泉成分がとても多く含まれています。鉄輪の泉質で最も多い「塩化物泉」は保温効果に優れ湯冷めしにくく、江戸時代からは「湯治場」として徐々に知れ渡り、温泉で体を癒す場所として発展してきました。
また、 美肌効果があるという「メタケイ酸」の含有量は他の温泉地の数倍〜数十倍程度あり、日本一とも言われています。そんなことから現在でも、温泉街散策を兼ね た2泊3日ほどの「プチ湯治」などが盛んに行われ、リピーターも多いそうです。
古くは和銅6年(713年)の「豊後国風土記」にも記述があるとのこと!鎌倉時代には、時宗(鎌倉時代末期に興った浄土教の一宗派)の開祖一遍上人が布教の途中に鉄輪に立ち寄り、むし湯や熱の湯、渋の湯などをつくったと言われています。
(参考:混浴温泉世界2012(別府市)内覧バスツアーレポート!)
▲「一 遍湯かけ上人」(画像左)は、ぼけが進まないよう、そして足腰がよくなるよう、治してほしいところに湯をかけるそう!
▲竹製温泉冷却装置。鉄輪温泉ならでは!世界初、100℃の高熱温泉が一気に「いい湯」に冷却。天然素材で自然冷却する「竹製温泉冷却装置」。この装置によって、より新鮮な100%掛け流しの温泉を楽しむことができるようになったそうです。
▲「ここちカフェむすびの」の店主・河野健司さんが現在も取り組んでいるNPO法人湯けむり倶楽部による鉄輪温泉ボランティアガイドツアー。
▲店舗のすぐ目の前から伸びている「別府石の石畳」。
▲鉄輪温泉内各地にある案内看板。風景にマッチしたレトロ感がかわいい。
▲店舗すぐ横にある共同施設「熱の湯」。うれしいことに入浴料無料!
▲熱の湯と並んで佇む「熱の湯源泉跡」。レンガ造りの重厚感と歴史を紡いできた風格に圧倒されてしまいます。
店舗紹介
明治40年頃に建てられ、医院として地域診療に携わりながら、時代の流れとともに閉院した後も少しずつ形を変え、地元鉄輪(かんなわ)では「下の家」という通称で親しまれていた建物。歴史の波を乗り越えて来た力強いオーラと貫禄のある佇まいに自然と目を惹かれます。
▲建物のすぐわきからも温泉の蒸気が立ち昇っている。
天井まで吹き抜けになった開放感のある店内には、大小のテーブルとカウンターがあり、建物が醸し出すやわらかな雰囲気と、蒸気が立ちのぼる温泉街の風景を楽しみながらゆったりと過ごす事が出来ます。
一階のコーナーには、店内で使用している美濃焼や三重県の窯元の作品や、別府市内のアーティストの作品「羽織紐のピアス」や「ステンドグラス雑貨」など、色とりどりの雑貨が上品にディスプレイされています。
また、二階スペースにも同じようにテーブルセットが置かれ、壁には期間限定で絵本作家「わかやまけん」の原画展示をされたり(展示期間未定)、みずみず しくて優しい風合いの苔雑貨が店内のあちらこちらにディスプレイされるなど、レトロな建物がアーティステックに彩られています。
▲冬期は建物の構造上、室内が暖まりにくいため、テーブル席にはこたつが設置され、こたつの無いカウンター等の椅子席には、暖をとるための膝かけの貸出しがあるなど、店主の心配りが細部に感じられます。
おすすめメニュー
ここち蒸しセット 1,500円(6食限定)飲み物付き
・飲み物…珈琲またはストレートジュース(みかん/りんご/赤ぶどう/白ぶどう)
「ここちカフェむすびの」の基本的なコンセプトは「家庭料理」。ただ単に家庭料理を準備するのではなく、いつもの食卓にならぶ料理を、100℃以下の温度で蒸す「低温スチーム」や「50℃のお湯洗い」など、鉄輪に昔から伝わる温泉地ならではの調理法を用いて、下ごしらえから手間ひまかけて準備し、素材の旨味を最大限に引き出す努力がなされています。
また、食器は店主・河野さんがオープン前に惹かれたという美濃焼や三重県の焼物を使用。料理の雰囲気と焼物の風格が建物にマッチして、さらにここち良い空間を演出しています。
▲ほうじ茶(左) 手作り豆腐(右)
まずは食前にほうじ茶。カフェインが少ないので渋みや苦みが少ない上に、胃や体に負担をかけず、さらにカテキンを多く含むため「血行促進」などの効果があるので、体を温めながらその後に続く食事に向けて調子を整えます。
豆腐はにがりを抑え、低温スチームでつくったなめらかな豆腐。大豆の味がしっかり感じられ、ババロアのようにふわっとしていてなめらかな食感。塩や醤油をかけずにそのまま頂くのが最も美味しい食べ方だと思います!
▲蒸籠&鍋(季節の野菜と肉/魚貝類の蒸し物。同じくスープ)
お湯洗い(50℃)をして臭みと汚れを取り除いた鶏肉と季節の野菜を低温スチームで調理した蒸籠。素材の旨味がしっかりと際立って感じられます。この日はパルメザンチーズとハーブで味付けされており、ほのかな香りとコクをプラス。鍋には「無添加だし」をベースにした優しい野菜スープが!特に寒い時期は、体内に「じ〜んわり」としみ込んで広がる感覚がたまりません!
▲ピザ(仕入れによって内容が変わります。)
大分県国東(くにさき)産の小麦粉「恵粉(エコ)美人」という全粒粉を使った自家製ピザ生地に、別府の「チョージュ味噌」をトッピングした和風ピザ。サクサクした生地は粉本来の味が感じられ、味噌の濃い味としっかり絡んで旨味をお互いに引き立てています。
おすすめ「おやつ」&「ドリンク」☆
食事メニューと同じく、すべて手作りで仕込んだ「おやつ」からは、見た目にもその丁寧さが伝わってきます。また、ハーブやスパイスを組み合わせた独自スタイルのケーキやクッキーは、素朴な味わいながらしっかりとした存在感があります。さらに、卵やバターを使用していない「おやつ」もあるので、アレルギーが気になる方はそちらをどうぞ☆
ケーキ2種盛り 300円
6種〜8種あるケーキの中から、好みのケーキを2種類チョイス。今回は、特に人気のある3種をご紹介します!
・スティックブラウニー(奥)
シンプルな色合いと形から想像できないほど香りが豊か!これは4種類ものスパイスをブレンドしているからなのだそうです。
・季節のクランブルケーキ(中央)
自家製のオレンジジャムをたっぷり使用し、贅沢な厚みでしっとりと柔らかい食感が印象的。クランブルといえば「バターたっぷり」といったイメージがありますが、実はこのケーキにはバターも卵も使っていないのだそう!
・ダブルチョコのショートブレッド(手前)
小さな欠片からもチョコの香りがふわっと立ち昇るほど芳醇さが魅力的。卵とバターを使用していないので、この香りとはうらはらなさっぱりとしてサクサクっとした軽い口当たりです。
クッキー五種盛り 300円
(写真はレモンシュガークッキー、チョコチップクッキー、ラング・ド・シャ、グリッシーニ、クラッカー)
約7種のクッキーから好みのものを5種類チョイス! もちろん全て手作りで、材料となるジンジャーシロップやレモンピールも全て自家製。甘いクッキーだけでなく、バジルやローズマリー、オレガノなどのハーブを用いたおつまみ系クッキーをバランスよく準備し、さらに「ゆず胡椒」などの料理スパイスを取り入れるなど、風味や食感をアレンジするアイディアに驚かされます。
フルーツソーダ 500円
(いちじく、かぼす、レモン、ブルーベリー、ぶどう、りんご、ミント、ジンジャー、梅、パイン、オレンジピール)
▲パイナップルソーダ(手前)いちじくソーダ(奥)
▲通称「食べるドリンク」と言われるように、スプーンでひとすくい出来ないほどの大きな果肉がたくさん入った贅沢ソーダ!飲みごたえ、食べごたえにきっと満足しますよ☆
その他のメニュー
むすびのランチ 800円
ほうじ茶・お茶のとも(低温蒸し、天日干しした野菜たっぷりのおかず)
一品料理・汁物・ごはん
つめたいおやつ 300円
・キャラメルプリン
・ほうじ茶のパンナコッタ
・小豆のゼリー 白玉添え
他にも、一品メニュー、期間限定スイーツやドリンクメニュー、お酒のメニューもあります。
インタビュー 店主・河野健司さん
▲店主・河野健司さん
「建物が持つ”人を惹き付ける力と魅力”があるからこそ、このカフェになるんです。この空間を感じるためにわざわざ足を運んでくださるようなお店でいなければなりません」
Q:「ここちカフェむすびの」のオープンはいつですか。
「昨年2011年4月20日です」
Q:以前からレストランやカフェなどの店舗を経営されていたのですか。
「いえ、そうではなく仕事の関係で10年ほど前に大阪から別府に移り、鉄輪温泉の施設に務めていました。その傍ら、ボランティアで鉄輪温泉のまちあるきガイドをしていました」
Q:では、鉄輪の地で「カフェ」をオープンしようと思ったきっかけは?
「実は、当時は特に『カフェをオープンしたい』という希望があるわけではなかったのです。鉄輪に住みながら、前々から『農業をしてみたい』という思いがありましたので、宮崎や鹿児島まで農業を営む人に会いに行ったり、土地や風景を探しに出かけていました。しかし、不思議な事に、ボランティアガイドをしながら感じていた、この建物が醸し出す力がどうしても頭から離れませんでしたし、ガイドをしながら観光客の方がその魅力に自然と惹かれている雰囲気をよく目にしました。また、自分も『農業がしたい』と土地を探しつつも、実際には鉄輪が好きで、中々離れることができなかったというのもあります。そこで、農業という選択肢からいったん離れ、自分が感じたインスピレーションを大切にして、この建物を何らかの形で再生しようと思いました」
Q:では建物を再生しようとされるときに、なぜこれまで経験のない「カフェ」をやろうと考えたのですか。
「この建物を再生するときに、まず考えていた事は、『空間をしっかり感じられる所にしたい』という事でした。はじめは、この建物が持つ力と空間であれば、作品を展示するギャラリーがいいのかとも思ったのですが、それでは作品を楽しむ方が中心となり、空間がその次になってしまいます……。そうではなく、この建物が刻んだ歴史が醸し出す空気を主役にした空間にしたいと考えた時に、たどりついたのが『カフェ』だったのです」
Q:空間を主役に考えた時のメニュー構成は悩まれたのでは?
「実際のところ、悩みましたね(笑)。一般的に想像できるカフェメニューでは、ありきたり過ぎてこの空間にマッチしないし、器選びも県外の窯元を見て回ったり、大きな展示会へ足を運んだりもしました。いろいろと勉強し、迷った結果、原点にもどって、大切にしたいもの、大切にしなければならないものを大切にする、当たり前の事を丁寧にしたいと思い現在のメニューに至りました」
Q:メニューの基本的となるものは何ですか。
「基本は『家庭料理』です。もちろん、一般的な家庭料理を提供しても、この建物の風格にはマッチしません。家庭料理といえど、手間ひまかけ下ごしらえをし、さらにこの建物の風格にマッチした焼物や提供のスタイルを心がけようと考えました。また、別府にはこの温泉の蒸気を活かした『地獄蒸し』や『お湯洗い』『天日干し』といった独特な調理法があり、鉄輪にはその調理法の中の『蒸し』に焦点をしぼって、専門家の指導のもとに研究し、『低温スチーム』や『50℃お湯洗い』という素材の旨味や力を引き出す調理法を進めています。鉄輪の先人達の知恵と、それにつながる蒸気を研究してたどりついた調理法を取り入れてメニューを準備しています」
Q:『むすびの』という名前の由来は?
「この建物を中心に、さまざまな人と地域、文化や繋がりができています。その繋がりを『結ぶ場所』となるよう、そしてこの建物がこれまでに刻んで来た歴史が醸し出す雰囲気をゆっくり感じられるようにという思いを込めて店名にしました」
Q:今後はどのように展開される予定ですか。
「オープンしてまだ2年弱なので、まずは長く親しんでもらえるような場所であるように丁寧に続けていく事だけです。この建物自体が持つ魅力と風格だから人がわざわざ足を運んでくれる。そしてその期待を損なわない料理を準備して、ここちよく鉄輪での時間を過ごせるお店として育てていきたいと思います」
医院とカフェを比べればまったく違うものですが、「訪れる人を元気にする」という点においては、どちらも同じ働きをしているのではないでしょうか?なにより建物に思いを込めて命を吹きこんだことが素敵だと感じました。今日ははお忙しい中、取材にお付き合いいただきありがとうございました。