おかしのHADA
高品質で高級感が溢れる王道ケーキを常に新鮮な状態でリーズナブルに提供!子どもの頃からパティシエを目指していたというオーナーならではの情熱とこだわりの秘密にせまる☆
唐突ではありますが、みなさんは「ケーキ」という響きから何を連想されますか?バースデー、クリスマス、ウエディング、プレゼントといったところでしょうか?ケーキにまつわる思い出は様々でしょうが、やはり一般的に共通して感じるのは「日常的なもの」というよりも「特別なもの」として受け止められることのほうが多いでしょう。ただ近年では、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどで販売されているスイーツの種類も豊富になり、ケーキなどもスナック菓子感覚で気軽に購入できるようになったことから、以前に比べると「日常的なもの」という捉え方をしている方も多くなったと思われます。
しかしスイーツブームも一段落し、ありとあらゆるスイーツが街中に溢れかえっている今、多くのスイーツファン達の注目は「目新しいもの」から「信頼の置ける確かなもの」へと移行しています。そして情報が溢れている今だからこそ、逆に「だまされないぞ!」という気運が高まり、スイーツファン達の心境は益々「本物志向」に流れているのが現状だといえるでしょう。
今回ご紹介する、昭和23年創業のケーキショップ「おかしのHADA」は、時代の流行や店舗の立地条件等に左右されず、とにかく「自分が目指す本物のケーキづくり」を追求し続け、今では年商1億2千万円を超える店舗へと発展し、現在もその人気は衰える事なく、県内外から日々多くのファンが通う有名店となり、日々進化を遂げています。
そこで今回のレポートでは、「おかしのHADA」のおすすめケーキの紹介と合わせて、3代目を引き継いだ現オーナーシェフパティシエの羽田吉克さん(上)に詳しくお話しをうかがい、人気の秘密を探ってみました!
(レポート:中本望美、モデル:Yuka Iemura)
おかしのHADA
住所:大分県豊後大野市三重町百枝1086-82
電話:0974-22-1559(FAX同じ)
営業時間:9:00~19:00
定休日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
道案内〜三重町運動公園や総合体育館のすぐそば!
▲延岡市から国道326号線を大分方面へ右折し、2つ目の交差点を三重町駅方面へ曲がります。
▲三重町駅方面へ曲がる案内板(左) 三重町駅前(右)
▲三重駅を通り過ぎて道なりに左手方向にある踏切を渡る(左)坂を上りきったところの左右に三重町運動公園・総合体育館があり、そのすぐ先の右手方向にオレンジ色の店舗外観が見えてきます。
周辺マップ
店舗紹介
◆オーナーシェフパティシエの愛猫がお店のキャラクター♪猫好きも集まる『おかしのHADA』には、新鮮なスイーツが常時約35種類!
▲ヨーロッパの町並みで見かけそうな、レンガを組み合わせた壁と、オレンジの色合いがかわいらしい外観がワクワク感を高めてくれます。
▲オーナーが飼っていたネコちゃんを友人が画いたイラスト化!それがそのままお店のメインキャラに!こちらのウエルカムボードはプレゼントしてくれたのだそう(右)
▲ガーデンのインテリアにもネコちゃんが♪
◆L字型のショーケースに色とりどりのケーキがずらり☆
▲中には隅々までずらりとケーキが並んでいます。季節によってことなりますが、通常35種類の作品がショーケースを彩っています。
▲「いちじく」や「桃丸ごと」のケーキなど、季節限定ケーキも種類が豊富!四季折々でショーケースの表情が変わります。
◆愛猫がお店のキャラクター☆
ショーケースの奥には、お店のイメージキャラクターである、オーナーの友人が画いた猫のイラストがディスプレイされています。他にもネコちゃん雑貨を店内のあちらこちらで見かけます☆
◆お菓子造りの道具がそのままインテリアに!
▲オーナーがフランスで見つけた『クグロフ』というアルザス地方の伝統菓子を作る用具をモチーフにした陶器雑貨。日本人ではイメージしないようなフランス風の色彩が目を引きます。
『おかしのHADA』5ッのこだわり☆
◆「とにかくこれからは、ちゃんと作られた本物しか生き残れない時代になります。どれが本物でどれが偽物かをユーザーがしっかり見極める時代なんです。だからどれだけ真剣にお菓子と向き合えるかにかかっています!」
と語る羽田オーナー。全国に数多く点在するケーキショップの中で、一過性のブームではなく、長い歴史を持ちながらコンスタントに多くのファンが通い続けるケーキショップはほんの一握り。その人気の秘密にせまりました!
産地にこだわらずいい素材を厳選する☆
ケーキだけでなく、グルメ記事でよく見かける『〜産を使った……』という言葉。売り文句としての響きは確かにいいのですが、大自然の中で育つ食べ物は、気温・天気・種まきや収穫のタイミングなどなど、安定しない数多の条件の中で育つものだから、毎年必ず同じものができるとは限りません。素材の味とフレッシュさが要となるケーキには、産地にこだわらず、『その瞬間で一番いい状態のもの』を選んでいるのだとか。とにかく味が最優先!
素材同士が長所をつぶしあわないよう、慎重にメリハリをつける。
単に上質な素材をたっぷり使えばいいというものではありません。主張する所は主張して、控える所はしっかり抑える。見た目のデザインだけでなく、味や食感のバランスを取りながら、ケーキ個々の特質を考慮し、楽しむポイントをイメージしながら長所を明確する。さらにそこから味全体の輪郭がぼけてしまわないよう整えることが大切との事。まるで絵を描いているかのようです。
素材そのものがもつ風味を細かく分析して時間をかけて下準備を!
生き物には見た目の違いだけでなく、性格やくせがあります。もちろん様々な素材にも甘み、苦み、繊維など、それぞれがもつ特有の風味があります。その風味を日々敏感に感じ取り、ほかの素材と馴染む様にしたり、もっと個性を強調できるようにしたりと、時間を惜しまず手間ひまかけて、じっくりと下準備することも必要なのだそうです。
常に新鮮なケーキを並べる!
ケーキは生き物!つくりおきして長時間ならべることはしない。常にお客様がフレッシュな状態でケーキを購入出来るよう。ケーキ補充のタイミングには細心の注意をはらっているそう!
リーズナブル&大きめサイズ☆
せっかく買って頂けるのであれば、たくさん食べて、しかも残さず最後まで楽しんでほしいから、飽きがこないよう甘さを抑えながら、満足感が得られるバランスのとれた味を研究し、さらにサイズを大きめに!そして価格は『お客様目線』で設定し、納得して購入してもらえるように心がけているとの事。
パワナビピックアップおすすめスイーツ☆
見た目だけでなく、味・食感、その全てが細かくデザインされた作品の数々!そんなケーキがずらりとならぶショーケースから、パワナビがあすすめ商品をピックアップしてご紹介いたします♪
びっくりシュー 120円
何と言ってもメインはこのシュークリーム!!1日に1,000個以上売れる一番人気商品です。パリッとした食感と、ふわふわの食感を合わせ持つオリジナルスタイルのパイ生地タイプのシュークリーム。隅々までぎっしりとクリームが詰まっていて、豊かなミルクの風味に、ほのかな柑橘系の香りが爽やかさを演出。濃厚なのに爽やか、甘さ控え目で、飽きのこない食べ心地にファンが多いのも納得です!!
いちじくのタルト(夏期限定) 380円
厳選した大粒を均等にスライスし、独特のえぐみを抑えるためにオリジナルブレンドのエキスに浸して1日寝かせた「いちじく」がクリームの上に10枚も!「いちじく」の甘みとフランボワーズの酸味、甘さ控えめに整えた生クリームのまろやかさが絶妙なバランスです。真夏の暑さでもあっさりと楽しめますよ♪
バナナとキャラメルのタルト 360円
空焼きのタルトに、カスタード・キャラメルを絡ませて下処理したバナナスライスを入れてベースをつくり、その上にリング型のキャラメルムースとチョコクリーム、バナナを乗せた細やかなデザイン。キャラメルムースは一口だけでほろ苦さと甘さが口中に広がるようなインパクトがあり、カスタードとバナナが後味をまろやかに整えてくれます。スタッフも絶賛☆人気1,2位を争う、大人味のケーキです!
抹茶大福 300円
自家製のあんこと抹茶のムース、抹茶のスポンジと生クリームの層がやわらかくて薄い皮にやさしく包まれています。あんこの甘さを際立たせる為に生クリームは砂糖不使用。初代・二代目が守った和菓子屋への思いと、ケーキへの情熱を合わせた現在の『おかしのHADA』だからこそできる愛情たっぷりの大福です。
シェフ・スタッフも自慢のスイーツ☆
◆シェフいちおしはこちら☆
チーズズコット 1,500円/チビズコ1,000円
極限にまでふわふわに焼き上げた空気感のあるスフレチーズケーキ♪見た目でビックリするほどの大きさですが、1人で丸ごとひとつ食べてしまえるくらいの軽さですよ!食べきれなくても、ラップをして冷蔵庫に保存すれば、変わらぬ風味を3日間楽しめるのもうれしいですね☆
◆それでは、その他の人気スイーツをご紹介します!
▲プロフィットロール 2,000円(左)
一番人気の『びっくりシュー』を10個重ねてデコレーションした、ファンにはたまらなくうれしい逸品!フランスのウエディングケーキとして用いられる『クロカンブッシュ』のように、大勢でワイワイ手で摘みながら食べるのもいいかもしれません♪
▲チョコバナナロール 1,200円(右)
ふわふわのスフレロールにバナナがまるごと1本閉じ込められています。いろいろなチョコレートを駆使してデザインされたチョコバナナロールは、大人だけでなく子どもから大人気です!
▲チョコレート 2,800円
名前のとおり、チョコレートを使ったさまざまなパーツを贅沢に組み合わせたチョコレートケーキの王道!『高級なカフェラテ』をイメージしたコーヒーのブリュレとミルク風味のハーモニーに陶酔してしまいます。艶感のあるシノワールショコラで高級感とシックさを演出していますが、大人に限らず子ども達からも熱い支持を受けています。
▲桃とブルーベリーのタルト 2,500円
夏が旬の桃とブルーベリーをふんだんにトッピングした華やかなデコレーション。出来のいい湯布院の大粒ブルーベリーをつかっていますが、近日中に自家菜園のブルーベリーの収穫期を迎えるので、今後は自家製ブルーベリーがたっぷり使われる予定☆
◆スタッフも自慢のショートケーキ!
▲カフェブラン 360円(左)
上記でご紹介した『バナナとキャラメルのタルト』と1,2位を争う人気を誇る定番ケーキ!ブラウニーやチョコクリーム、コーヒーの香りをまとったチョコムースが大人っぽさを演出!
▲丸ごと桃のタルト 550円
毎年夏に登場するのを待ちわびているファンが多い人気の季節限定品!今年は出来のいい香川産の桃を使用。種を手作業で丁寧にくり抜いてオリジナルカスタードクリームを詰めた丸ごとの桃をタルトに乗せています!
▲杏仁ゼリー 320円(左)
フレッシュなフルーツゼリーと、杏仁がギュッと凝縮されたような濃い香りのゼリー。杏仁ファンには絶対外せません!爽やかさと濃厚さが織り成すリズムを楽しみながらゆっくりと味わってみて下さい。
▲マリエ 300円(右)
フランボワーズが入ったイチゴのムースとハートのマカロンが愛らしい女性好みのスタイル。中に入っている深みのあるピスタチオのムースが後味を引き締めます。
▲ひよこの旅立ち 元気プリン(1つ180円、6つ1,080円)
当時若手だったスタッフが考案し、販売から10数年変わらないスタイルで人気を集めているプリン。「新鮮な卵と牛乳から生まれた“ひよこ”たちが、買ってくれた人にずっと愛されるように」と願って名前をつけたのだそうです。ちなみに、その方は現在も羽田オーナーの右腕的存在として技術を磨いているのだとか。
パティシエが作るプレミアムピュアアイス6種 1本120円☆
・杏仁(奥左)・プレミアムチョコ/フランス産ヴァローナ(奥右)
・八女茶(中央左)・あまおうの苺(中央右)
・フランボワーズ(フランス産)(手前左)
・ミルキー(阿蘇ジャージー牛乳)(手前右)
各素材の一番良いと感じられるブランドを、全国だけでなく世界に目を向けて厳選し、すべて手作業で丁寧に仕上げた贅沢なアイスクリーム!使い惜しみしない素材そのものの味がダイレクトに響きますよ☆
その他の焼き菓子も充実☆
初代から『地元のお菓子屋さん』として、行事ごとの引き菓子を一手に引き受け、地域には無くてはならない存在として親しまれている「おかしのHADA」。ずっと足を運び続けてくれる地元の方々にも喜んで頂ける様にと、店舗がどんなに新しくなっても、必要とされる商品は変わらずしっかりと揃えています。
▲詰め合わせ用のギフト箱も各種そろっています。予算に応じてチョイスしてください♪もちろん、ご自宅のおやつにもぜひ☆
こがしバターカステラ1,050円
▲バターをほんのり焦がした、ヘーゼルナッツのようなコクのあるブールノワゼットというソースを合わせたカステラ。未開封で2週間持つので贈答品や結婚式の引き出物として重宝されています。
▲季節ごとにデザインが変わる風呂敷でつつめば、センスのあるおしゃれなプレゼントに☆
(ふろしきラッピング +300円)
インタビュー~オーナーシェフパティシエ『羽田吉克』さん
◆これからは、『どうしたら他を抜きんでることができるか?』のネタを考えることよりも、「本物」を求めるお客様を裏切らず、そして満足させることができる「味・食感・見ため・量・価格」のバランスに優れた商品を、いかにしてつくり続けることができるか?につきると思います。
オーナーご自身について
Q:創業は何年ですか?
「昭和23年に祖父が『羽田菓子舗』という屋号で創業し、私が3代目になります」
Q:ずいぶん長い歴史があるのですね。当時から洋菓子を扱っていたのですか?
「いえ、初代の祖父、二代目の父までは、おはぎや饅頭が店頭に並ぶ和菓子店でした」
Q:なぜ羽田さんは、パティシエに?
「単純に、幼い頃から『ケーキ』へのあこがれが強かったからです(笑)。きっと他の子ども達よりもずっと強かったと思いますよ。何故なら、私が『おやつが食べたい!』というと、両親からはいつも決まってお店に並ぶ饅頭を渡されいたからです。でも本当は、キラキラ輝くケーキや、可愛い形をしたクッキーが食べたかったのが正直なところでした……。しかし、両親にしてみれば、店先に甘い和菓子がたくさんあるのに、わざわざ遠くまで洋菓子を買いに出かける必要なんてないですからね……。そんなことから、幼い私は日に日にケーキへのあこがれが強くなって、小学校の卒業文集にも『将来はケーキ屋になる!』と書いたほどなんです」
Q:パティシエの道を進むことに関して、初代より和菓子屋の看板を継いだ先代からの反対はなかったのですか?
「父(先代)は、私を含め子ども達に対して『自分の好きな事をしなさい』と言ってくれる人で、『後継ぎだから』とか『将来の為』だとか、子ども達の進む道にあれこれ口出しするタイプではありませんでした。だから夢だった『ケーキ屋』を目指して大阪の辻製菓専門学校に進む時も、積極的に後押しをしてくれました。卒業後は修行の為に福岡のケーキ専門店に就職し、ノウハウを学びました。しかし、洋菓子造りに進んだ時から『ゆくゆくは三重町に洋菓子店をオープンしたい!』と心に決めていたので、それから5年後の1996年に帰郷して、当時の和菓子を扱っていた父の店に入り、はじめは和菓子と洋菓子のどちらも売っており、それから2003年に完全に私の代になり、洋菓子店としてリニューアルオープンし現在に至ります」
Q:結果的に後を継ぐことになったのでしょうが、パティシエになるだけでなく、先代が引き継がれた店舗そのものを、和菓子店から洋菓子店に転向する事に対して、先代や周りの反応はいかがでしたか?
「もちろん親戚中が大反対しましたね……。父(先代)も急激な変化をまわりがどう受け止めるかに対しては心配していました。きっと現在の店舗周辺の状況をみれば、立地条件はよくはないですけれど、時代の流れを考えればそこまで大反対しなくてもと思われる方もいらっしゃるかもしれません……。しかし、今でこそこの周辺は中九州道が開通し交通の便もよくなり、目の前には運動公園や総合体育館もできましたので、看板も目につきやすく、隣町や遠方からも比較的スムーズに来店いただくことが可能になりましたが、私が帰郷した20年ほど前は、まだ目の前には国有の杉林と田畑ばかりが広がる超がつくほどの田舎町でした。店舗には地元の方だけが足を運び、冠婚葬祭など、和菓子を中心とした節目の引き菓子のご用命をいただき生計を立てていたので、大多数が『地元の方々にいきなり洋菓子を受け入れろというのは無理ではないか?』という意見でした。どうにも当たり前すぎる意見です……。もちろん利益を最優先すれば、この土地に洋菓子店をオープンするのは考えられないことぐらい私にもわかっています。ただ私は、真っ先に、自分が生まれ育った土地にこだわって仕事がしたかったんです。そして地元の方々に私がつくる洋菓子を楽しんでいただきたかった……。なにより『和菓子・洋菓子に限らず、本当に美味しいお菓子であれば必ず喜ばれる』という変な自信もありましたし……。まあ、若くもありましたしね……」
Q:先ほどお話しにあったように、立地条件が悪かったにも関わらず、現在では人気店として地元はもとより、遠方から足を運ばれるファンの方々も多いのですが、実際にどのような形で和菓子店から洋菓子店へのリニューアルを成功させたのですか。
「まずはじめに、長年うちの和菓子に愛着を持ってくださっていた地元の方々のことを考え、食べ慣れない洋菓子に対し少しでも敷居を低く、また気軽に食べてもらえるお菓子として『シュークリーム』をメインに選びました。そして、素材、配合、味、食感、クリームの量、すべてのポイントにとことんこだわり、年齢性別によらず、食べ慣れない洋菓子に興味を抱いていただけるような『美味しくてリーズナブルなシュークリーム』をつくることに全てをかけました。そしてできたのが、今も看板商品として人気の高い『びっくりシュー』です。和菓子ひとつの値段と変わらないのに、味はもとより、豪華さも食べ応えもあることから、地元の方々にはご満足いただけたようです。そして徐々にその味が口込みで広がり、いつの間にか人気が高まってどんどん客足が増えていきました。そんなことから今の『おかしのHADA』があるのも、たったひとつの『シュークリーム』をこだわりぬいて丁寧につくったことがきっかけなんです」
Q:シュークリーム以外で「これはぜひ地元の方々に食べてもらいたい」という気持ちでつくられた「ケーキ」は?
「自分がフランスで衝撃を受けて好きになった『タルト』ですね!これをどうしても食べて頂きたくてタルト関連のケーキを中心的に作りました。もちろん、家族みんなで楽しむことができるシュークリームとは違うので、予想はしていましたが、最初は人気がなく敬遠されがちでした……。しかし、思ったように売れないからといって、手を抜かず、それからもコツコツとつくり続けたおかげで、今では『タルト系ケーキ』がお店の人気商品になっています!そして、徐々に定番ケーキを増やし、季節限定商品にもチャレンジし、現在は35種類程度ご用意できるようになっています」
お店の商品開発や販売について
Q:景気低迷が続く中でも、人気が衰えなかったスイーツ業界でしたが、近年、特に女性達の間で「ヘルシー志向」が定着していることから、例えば、ヘルシーとは逆の方向にあるといえる「ケーキ」を販売する上でなにか影響はありましたか?
「まあ、ヘルシーブームということもあって、お菓子業界にも、『ベジスイーツ』なるものが現れ、一時期人気を博したことがありました……。実は、私たちも挑戦してみたのですが、やはり野菜のエグみや青臭さ、舌触りがどうしても自分が思い画くスイーツの姿とは合致しなかったので、結局当店では取り扱いませんでした。しかし、ヘルシー商品を売り出さなかったからといって、特に売り上げに影響した訳でもありませんでした。私が思うに、とにかくケーキというのは、たとえダイエット中の人であっても、ある意味、何かにつけて自分へのご褒美として食べたい『特別なもの』ですし、『ダイエットが成功した暁にはおもいっきりケーキたべるぞ!』という、そんな存在なんだと思います。だから私達は、それがたとえヘルシー指向の方々であっても、心の底では、ついワクワクしてしまうような夢のある商品をつくらなければならないと思います」
Q:ということは、ケーキをみてもワクワクしなくなった、例え美味しくても、ケーキとしての存在価値がなくなるということですね?
「もちろんです!だからこそスイーツブームとは対極にあるヘルシーブームであっても、ケーキにワクワク感があれば売上げが落ちたりはしませんでした。むしろ『自分へのご褒美にケーキを!』という思わぬ効果が生まれたりもするのです。やはり、売上げを大幅に落としかねない原因は、ケーキそのものが特別なものでなくなり、日常化していまうことにあると思います」
Q:羽田さんは、現在、ケーキやその他スイーツの存在が、そのような危機的状況にあると感じられる部分があるのですか。
「自分が小さい頃に抱いていたような『ケーキへのあこがれ』という極端な気持ちはもう今の日本にはないでしょう(笑)。私はケーキがあまりにも一般化し過ぎたと感じています。先ほどおっしゃった『ヘルシーブームによるケーキ離れ』というイメージを、もしみなさんが肌で感じているのであれば、それは単なる、ヘルシーブームによるケーキ離れではなく、もっと重大な『ケーキの日常化』が影響していると思います。ひと昔前は、ケーキは人生の節目やお祝いには欠かせない『主役』でした。重ねて、バブル崩壊後ですら、『不景気の中でのちょっとした贅沢・ご褒美』という感覚が定着し、いつしか『スイーツバブル』となり、カリスマパティシエがもてはやされ、全国のあちこちにケーキショップが乱立しました。そしてブームが加熱し、しまいにはコンビニエンスストアにも、そこそこのスイーツがずらりと並ぶようになり、スナックを買うついでにケーキを購入する感覚が一般化し、いつしか自宅でも会社の事務所でも、ケーキを見る事が当たり前になってしまいました。結果として、ケーキという存在に特別感を持たせられなくなり、時代の流れからスイーツバブルと言われた時代も、ここ数年で終わりました。だからこそ、ここからが私たちの本当の勝負であり、正念場であり、今、本物をつくっていかなければ、この世界では生き残ることができない、ヘタをしたらこの世界がなくなっていくと、最近強く感じています」
Q:では、そんな状況から「抜きん出る為」には何が必要だと考えられますか?
「それは、特別な技術とかアピールとかではなく、単に『専門家ならではの技術をもった美味しいケーキを、職人プライドを懸けてきちんとつくり、お客様に適正価格で提供する事』につきると思います。確かにコンビニスイーツも美味しくなりましたし、気軽に購入出来る利点が重宝されていますが、やはりケーキショップのショーケースに並ぶような、色あざやかで新鮮なケーキをコンビニが扱うのは難しいですし、日本中何処へ行っても同じ商品がならんでいるので、どうやっても特別感は持てません……。実際に『特別なスイーツ』を購入したいとなれば、きっと誰もが話題のケーキショップに足を運ぶはずです。しかし『話題』といっても、多くの場合、火付け役となるのは各メディアであり、メディアは記事に煌びやかさを持たせるために、つねに目新しさを求めます。メディアうけするようなスイーツをつくれば、ブームに乗る可能性はありますが、やはりお客様の購買意欲を継続させるには、一にも二にも、味・見た目・価格のバランスが整った『本物』であることが絶対条件なのです。特に昨今はインターネットの効果などもあり、お客様方が非常に勉強されており、どの商品が本物で、どの商品が偽物かという情報交換に余念がありません。景気が悪くなればなるほど、無駄づかいはしたくないですから、慎重にならざるをえないのは当然のことです。ただ、菓子店の乱立と、コンビニなどの大幅参入によりケーキが一般化してきたとはいえ、やはり『特別感』や『本物』を求めるお客様はまだまだたくさんいらっしゃいます。私達はそんなお客様を裏切ってはならないのです。ですから、数年前までのように『どうしたら抜きんでることができるか?』ばかりを考えるより、これからは、最後の砦である本物を求めるお客様を裏切らず、満足させることができる『いい商品』をいかにしてつくり続けることができるか?につきると思います。こちらが手を抜けばすぐに見抜かれます。常日頃から気を引き締めてかからねばならないと思っています」
Q:羽田オーナーの考える『本物』とは?
「私が考える『本物』とは、まさにお菓子づくりの基本である、『添加物をつかわない素材の味』・『持てる技術を駆使した味と食感』・『デザイン性の高い見た目』のバランス感覚にすぐれているもので、何か特別な特効薬があるようなものではありません。ただひたすらお菓子と真摯に向き合うしかありません。ある素材の味を生かしたケーキを作るとしても、その素材自体が持つ美味しさだけでは足りないので、その主役を引き立てるような脇役的なパーツが必要です。またその主役にも脇役にも、スイーツにとって邪魔になるエグみや臭みなどがあれば取り除く手間も必要です。もちろん肝心な素材は、その時に一番いい状態で高品質のものであることは絶対条件なので、素材選びも慎重に行います。そんなひとつひとつの工程を丁寧に行い、最後にそれらのパーツを使って、味と食感のバランスを調整しながら組み立て『ケーキ』はつくり上げられます。ただデザインがユニーク、もしくは豪華だという点のみで興味をひくのではなく、主役、脇役、エキストラのそれぞれが、自分達の役作りをしっかりと行い、一丸となって感動を与えられる商品でなければ、お客様の心に何かを残すことはできません。まさに映画づくりと一緒なのです。そして、もうひとつ重要な条件は『適正価格』です。どんなに美味しくても、求めやすさがなければ手に取って頂けません。味・食感・見ため・量・価格のバランスに優れているもの、それが人に愛される本物のケーキだと思います」
Q:羽田オーナーがおっしゃる事は十分理解出来ますが、それだけ高品質な素材を使用して手間ひまかけるとなれば、必然的に販売価格は上がるものではないでしょうか……。
「一般的にはそうでしょうね。でも、私は価格を設定するときに、機械的に『原価』から算出する方法はとらないんですよ。なぜかというと、計算してしまうと、おっしゃる通り売値が非常に高くなってしまうからです(笑)。だって、そういう原材料費がかかる商品をつくっているのは、私自身が一番よく知っていますから(笑)。では、どのようにして価格を設定するかといえば、試作品ができると、各地のケーキショップを食べ歩いているスタッフ達と一緒に、原価に触れず率直に妥当だと思える金額を協議します。みんな味はもとより、価格にはひと際シビアなので、お客様の目線に立ったリアルな答えが帰ってきます。なにより、本来、ケーキって『高価』なものだと思うんですよね。だから、あまりに利益ばかり追求しすぎると、結局お客様が遠のき、やっていけなくなるんです。ケーキの内容に対する販売価格に関しては『お客様も納得!』では駄目なんです。『満足』していただかなければならないんです。何度も話していますが、今のお客様達は非常に勉強されています。確かに販売価格は経営者にとって一番頭の痛い部分ではあります。しかし、生き残っていくためには、自分にあまえ都合よく考えず、そうした部分においても客観視することが必要不可欠になると思っています」
Q:販売価格だけでなくケーキの鮮度にも非常にこだわっていらっしゃいますよね?
「もちろんです。高いお金を払って頂くわけですから、それに見合った最高の出来でお渡ししなければなりません。ですから『在庫がなくなったら作る』というスタイルを一貫し、ショーケースに並べる時間を出来る限り短縮させ、お客様には新鮮なケーキを提供させて頂いております」
Q:しかし、そうなると一日に作る回数も多くなるし、数をこなすには、非常に手間がかかるのでは?
「たくさんつくって、たくさんの方に喜んで頂けて、そして在庫も残らない!これって、私達からしてみれば一番うれしい事ですよ!」
Q:それを実現するには、スタッフ全員の精神面・体力面だけでなく、なにより意識が高くないといけませんよね……。
「正直、とても大変です。私も若い頃は体力的にも自信がありましたが、40歳を超えた頃から、思考能力や瞬発力に自信が持てなくなりました(笑)。だから以前にも増して、脳みそをやわらかくし、多方面からの視点を持つことができるよう、スタッフと共に勉強会を開いたり、外の世界に目を向け、発信力・受信力を上げるような意識をもつことを習慣づけるようにしています」
Q:そうしたモチベーションを保つためにしていることはありますか?
「いやいや、とにかく気合いと根性しか無いですね!どうにもならなくなったら自問自答しながら自分を極限まで追いつめて奮い立たせる。たとえ気持ちが低迷しても前に進むしか方法は無いし、どのような状態においても、今の自分にできることをプライドをもって全力でやるしかない!これしかありませんよ(笑)」
Q:そんな時はやはりスタッフのサポートが頼りになりますね。ちなみにスタッフ育成に特別な取り組みはありますか?
「話題になるような特別な取り組みは行っておりません。なにより私の技術をそばで見て積極的に盗みながらどんどん育ってほしいと願っています。製造スタッフもそうですが、ホールスタッフもマニュアルにそった機械的な接客ではなく、『自分の大切な人が買いに来てくれた時の気持になって』そんな接客を常に心がける様に指導しています。どんなにおいしいケーキを作っても、接客担当の印象が悪かったり、お店の雰囲気が暗かったりすれば、最終的にマイナスのイメージしか残りませんからね」
その他の活動と今後の展開について
Q:羽田さんは『おかしのHADA』の以外に、なにか他の活動をされていますか。
「専門学校の講師として技術を教えたり、職場体験学習の学生たちの受け入れや、幼稚園・保育園で親子に向けたクッキング教室の講師をしたりします」
Q:その時に、いつも念頭において指導する理念などはありますか?
「相手に素直な気持ちで向き合い、自分自身を見つめ直す心を持つ事です。パティシエ育成だけでなく、サラリーマンや主婦、子どもたちなど、全ての人の生き方に言える事だと思います。プライドはもちろん大切ですが、自意識過剰のプライドではなく、自分自身を育て上げるというプライドを持つ事を大切にしてほしいと伝えています」
Q:最後に、これからの展開について何かありましたら教えて下さい。
「今すぐどうこうという大きな展開はありませんが、動かなければならないタイミングを逃さない様に、いつでも自分のアンテナを高く張って、氾濫した情報を精査しながら、これからもスタイルを変えずにコツコツと進みたいと思います。きっと動くタイミングが来た時は、頭で考えるよりも心と身体が勝手に動き出しているでしょう。その時がくれば、和菓子屋だって洋菓子屋にしてしまうし、立地条件もなんのそのですから(笑)」
ありがとうございました。