高千穂・秘境の神社巡り その2
タクシーで行くシリーズ vol5 〜 高千穂・秘境の神社巡り その2
前回のレポート「タクシーで行くシリーズ vol4 〜 高千穂・秘境の神社巡り その1」でお伝えしたように、東国原知事のPR効果やスピリチュアルブームなども手伝い、過去に比べ神社巡りを目的に高千穂に足を運ぶ観光客が増ている。特に県外からの観光客が多いのは高千穂町に在住する自分が実感するところである。みなさんもご存知の通り高千穂町にはたくさんの神社があり、中には不思議なパワーをもつ神社がいくつかあるという話もよく耳にする。たしかに高千穂町自体が宮崎県北の深い山の中にあり、さらに各神社の鎮座地ともなれば、高千穂町民ですら方向感覚がなくなってしまうほど奥に入らなければならないのだからその土地が持つ自然のパワーがあってもなんら不思議はない。個人的にはこれといった特別な力などない私だが、現地に行ってみると妙に気になるスポットなどがあったりするから不思議だ。特に何百年も生き続けた巨大な樹木からはある種の「気」のようなものが感じられる。とにかくも今回の取材を通し、あらためて高千穂の山と自然の深さとそこで生活する人々の心を再認識させられた部分が数多かった。
そんなことから、冒頭で「今は県外からの観光客が多い」と書いたが、県内・町内の人達も、神社巡りを通しじっくり神話の里である高千穂の文化を見つめてもらいたいと思う。とはいっても、前回このコーナーでご紹介した分も含め、地図を見ながら自分で運転して神社巡りをするのは中々難しいのが問題だ。まあ考えてみればそれほど価値があり古くから守られている土地がそう簡単に街中のどこそこにヒョイっとあるはずもなく、そこにたどり着くことそのものに価値のあるようなところに点在しているのは納得だ。だから辿り着くまでの道中、道は細いしカーブの連続でその先の状況がわからず苦労する。中には民家の入り口をかすめ通るようなルートもある。これではハンドルを握りながら1日中不安と格闘しているようなもの・・・。そんな事から、この「神社巡りツアー」をスムーズに行うのは地元のタクシー会社に協力をしてもらうのが一番である。さすがにありとあらゆる道を知り尽くしたタクシードライバーは違う!地図をみることもなく、車一台がやっと通れるような細い道をすいすい行ってしまう。特に自分で運転をしている時は、こうした細い山道でのすれ違いにおいてポイントを知らないとちょっとしたパニック状態に陥ってしまうことがあるが、そんな事は気にせず、後部座席でゆっくり資料をチェックしたり風景を楽しんだりすることができるのがいい。ということで、今回はタクシーにゆられながら過去にパワナビで紹介していない8箇所の神社を、高千穂町在住の藤木テツローが紹介する。
(文:藤木テツロー 撮影:松田秀人 取材協力:高千穂交通株式会社)
協力:高千穂交通株式会社
住所:宮崎県西臼杵郡高千穂町三田井807-1
電話:0982-72-2145
フリーダイヤル:0120-70-2145
ホームページ:http://www.0982722145.jp
訪れた秘境の神社・周辺マップ
参考図書 『神々の坐す里〜高千穂の神社』
監修:高千穂町商工観光課
本文執筆:佐藤純子
発行元:高千穂町観光協会 (1,100円)
今回の高千穂交通「高千穂神社巡り」タクシーツアーでもまた前回のVol 4同様、こちらの冊子「神々の坐す里〜高千穂の神社」を参考にさせて頂いた。写真も多く神社の紹介だけでなく参拝時の作法や、専門用語集なども掲載されているのでとても便利である。もちろん移動中も手放すことなく、見所や歴史などをチェックさせていただいた。この日足を運んだ(前回も)神社もすべて紹介されているし、レポートをまとめるさいも強い味方となった。最近ではあちこちの書店でも見かけるようになったので、高千穂の神社に興味のある方はぜひ手にとってもらいたいと思う。今となっては高千穂神社巡りには欠かす事ができない1冊である。もちろんタクシーツアーをされる方に関しては、高千穂交通のドライバーに声をかければ用意してもらえる。
高千穂交通株式会社
▲高千穂交通株式会社・甲斐専務(右)
この「タクシーで行くシリーズ」では毎回お世話になっている、高千穂交通株式会社・甲斐専務。今回は自らハンドルを握り案内してくれた。
ちなみに所要時間は約6時間。午前10時頃に高千穂町の中心部をスタートし、昼食をはさんで午後4時頃スタート地点へと戻る予定。
高千穂交通株式会社
住所:宮崎県西臼杵郡高千穂町三田井807-1
電話:0982-72-2145
フリーダイヤル:0120-70-2145
ホームページ:http://www.0982722145.jp
高千穂・秘境の神社巡りスタート
・・・只今移動中
【向山神社】
杉の木立の間を参道が伸びている。土の参道は趣があっていい。名工・利吉が残した阿吽の像が出迎える。灯篭の上には七福神が座っている。初夏の木漏れ日に目を奪われる。しばらく歩くと石段が見えた。石段を登りきると間を空けてまた石段がある。
その先に伸びる社。木々のトンネルの先にある光。それは、いつか洞窟の中で見た光。アマテラスの神話を思わせる。その光は天に向かっている。その光の美しさに導かれるように僕は石段を登っていく。
社は尾根に建っていた。鎮守の杜の中にぽっかりと開いた空間。古代遺跡のようだ。社の上だけ空が広がり、白い雲が流れていく。山の奥の奥。集落からもずいぶん離れている場所にある。榊があげられている。村の氏子が奉ったのだろう。参拝している間、ずっと仏法僧が鳴いていた。
鎮座地:向山中尾平1806
・・・只今移動中。あの奥の山の麓へ。
【二上神社】
タクシーを降りるとすぐに水の粒子に包まれて驚いた。ざぁ〜という音に囲まれた特別な空間。まるで滝の中にいるようだ。先日まで続いた雨で境内の横を流れる小川の水量が多いのだ。僕はお守りにつけている勾玉のペンダントをその小川で洗った。水の中で水晶が光る。山の奥から流れ出る神聖な水。顔を洗い喉も潤した。
小学生の頃、遠足でこの神社に来たことがある。
よくこんなところまでこれたもんだと我ながら感心した。境内でみんなでお弁当を食べて、お菓子を交換した。誰もいない境内を歩くと、そのことが本当に遠い昔のことのように思えた。
鎮座地:押方2375-1
・・・只今移動中。高千穂町から五ヶ瀬町へ。
【三ヶ所神社】
三ヶ所神社には今年の春にも参拝した。浄専寺の枝垂桜が咲く少し前。岐阜県から訪れたご夫婦の観光ガイドをしたときに、三ヶ所神社の彫刻がみたいと仰るので案内した。それまでにも数回訪れていたが、改めてその彫刻をみると確かに凄い。
昌泰3年(900)に創建と伝えられているが、社の造りにしても彫刻にしてもよくぞ今まで現存していると感心する。どれほどの心血を注いだのであろう。海馬や鼠など珍しい彫刻もある。全部で74体の彫刻が施されているそうだ。
参拝客も多い。どこか人の存在を感じて馴染みやすい。梅雨の晴れ間。穏やかな風が境内の笹の葉を揺らしている。
鎮座地:五ヶ瀬町三ヶ所宮の原
【そば処・桜花亭】
三ヶ所神社の目の前にある「そば処・桜花亭」で昼食。五ヶ瀬町とは姉妹盟約町である北海道の新得町産のそば粉(全国そば生産優良経営表彰、平成11年度団体の部・農林水産大臣賞受賞)を使い、二八(そば粉80%、小麦粉20%)と呼ばれる江戸時代に確立した配分で打ったこだわりのそばが自慢。だしは高知県産の鰹節と北海道利尻産の昆布を中心にウルメイワシや鯖節をバランスよく調合し、醤油は1616年(元和2年)創業の千葉県銚子市のヒゲタ醤油本醸造を使用。そばを食べた後に、だしと割って飲むとろみのある蕎麦湯がまた格別。
皿そば 1,000円(おにぎり付き1,350円)
そば茶 400円
そばスナック 200円
その他のメニュー
・そばセット 1,500円
〜皿そば(冷)、かけそば(温)、そばがき、しるこ、そば豆腐
・ぶっかけそば 1,000円
〜とろろ、納豆、おろしの中からお選びください
・十割そば 1,200円(要予約・三人前以上)
・手作りケーキセット(限定) 800円
・ラベンダーアイス 450円
・コーヒー 400円
・そばがきしるこ 700円
そば処・桜花亭
住所:西臼杵郡五ヶ瀬町三ヶ所宮ノ原8405-1
電話:0982-82-1583
営業時間:11:00〜 品切れ時閉店
(夜は予約にて営業)
定休日:不定休
・・・只今移動中。突然雨が降り出した。
【中畑神社】
さっきまでの快晴が嘘のように雲で覆われ国見ヶ丘を越えたあたりからポツリポツリと雨が降り出した。中畑神社に着いた頃には本降りとなった。鳥居の前の大きな杉の木の下だけは雨に濡れない。立派な杉の木立が並ぶ参道を歩く。強い雨が境内を清めていく。天の水袋が破れたように降り注ぐ。
手を合わせただ心を落ち着かせる。その間に雨はあがっていた。なんて清清しい通り雨だろう。鳥居までもどり社を振りかえると、また初夏の青空が広がっていた。
鎮座地:押方6417
・・・只今移動中。
【下野八幡神社】
八幡神社には杉、いちょう、けやきの巨木がある。昔から村の人がこの社、この土地を大切にしてきたことが窺える。ご神木をみてその歴史を信じられる。古木には霊魂が宿るらしい。高千穂の古木は多くの伝説を持っている。神代の時代の伝説ばかりではなく、つい数十年前の伝説もある。この神社の境内にある大けやきもそうである。
数十年前、この木を買いたいという人が現われ切ろうとした。ところがそれ以来体が動かなくなってしまい、結局、諦めたそうだ。同じ話は別の集落でもきく。まだまだ科学では解明できないことが高千穂にはたくさんある。
むしろ、科学技術が進歩すれば進歩するだけ、聴こえなくなる声もあるのだろう。五月五日は、村の人が集まり例祭が行なわれる。
鎮座地:下野569
・・・只今移動中。
【祖母嶽神社】
標高1,756m。祖母山は九州で二番目に高い山だ。その麓にあるのが祖母嶽神社。社の側を道路が走っている。その隣には、それよりも大きな道路が建設中だ。
時代によって大切なものの基準は違うだろうが、昔は鎮守の杜に囲まれた静かな社だっただろう。時の流れに少し寂しさを感じる。社は新旧混合。本殿の鳥(鷲?)の彫刻が印象的。
鎮座地:五ヶ所1662
・・・只今移動中。
【黒口神社】
鴬とカラスが鳴いている。僕は霊の存在を信じてないことはないが、見たことはない。甲斐専務の話によると、黒口神社に案内したお客さんが悲鳴をあげて動けなくなったことがあったそうだ。高千穂交通の中にも霊的なものを感じてこの神社には行けないという運転手がいる。甲斐専務は僕と一緒で何も見えないので、ただ不思議がるばかりだ。
持参した『高千穂の神社』によると、黒口神社の登り龍・下り龍を彫った弟子が中畑神社の登り龍・下り龍を彫り、高千穂神社を造った大工たちが、その後、この神社を造営したともいわれているそうだ。
鎮座地:上野2215
・・・只今移動中。次が最後。
【柚木野神社】
社の真上に陽がある。間もなく雲が陽を隠したが、なんだか縁起が良い。
残念ながら一度もお目にかかったことがないのだが、この集落には人形浄瑠璃が伝えられている。夜神楽以外にも、様々な郷土芸能を伝えている村人は凄いな〜と思う。
鎮座地:上野932
テツロー感想
神様に手を合わせて拝むということは自分の心と見つめあうことでもある。今回は紹介するということが目的だったのでわりかし急ピッチで回ったが、一つひとつの神社はとても魅力的なのでじっくりと参拝することをおすすめする。
本当にどの神社もそれぞれに個性がある。高千穂に住んでいながら二上神社、三ヶ所神社、下野八幡神社以外は参拝したことがなかった。向山神社などはとても一人で行けるところではない。車一台がやっと通る舗装されていない道をひたすら山に向かって登る。車のない時代、氏子は登りながら何を考えただろう。山を登るということは下界から離れること。きっと一歩一歩歩むたびに心が澄んでいったのだと思う。
よくこんな山の中に社を建てたものだ。そして、よく現在まで朽ち果てることなく守られてきたものだ。村人の信仰の深さがうかがえる。
そして、それは今も続いている。人手不足で参道までは掃くことができないのであろう、秋の落ち葉がそのまま残されている。けれども、社には榊があげられとても神聖に保たれている。
もし、このレポートを見て高千穂の神社を参拝したいと思う方がいたならば、神様への崇拝はさることながら、ぜひ集落の住人の想いにも配慮してほしい。神社は村の歴史である。先祖代々守り守られてきた暮らしのよりどころである。そのことを理解し尊重すればきっと神様も受け入れてくれるだろう。高千穂の神社もさることながら、あなたの町の神社のことにも思いをはせていただければ幸いに思う。
今回のレポートは僕が僕の郷土を考える良い機会になりました。心晴れやかに、また色々頑張っていこうと前向きな気持ちになりました。最後に一日中運転と案内をしてくださった高千穂交通株式会社・甲斐専務、お疲れ様でした。そして本当にありがとうございました。