劇団Nooooon!! 旗揚げ公演『THE LIGHT STAFF 2012』
「確かにこの芝居は2時間ドラマの焼き直しのようなつまらない作品かもしれません……。でも、こうして幕が開くのを待っているお客さん達がいるんです。劇場はお客さんを乗せて飛ぶロケットです。どんなにくだらない芝居であっても、お客さんが乗り込んできたら、ロケットは飛ばなくちゃいけないんです!そのために僕たちはコクピットにいるんです。だから何があっても幕を開けましょう高杉さん!」
2012年5月17日から5月20日の4日間、「戸野廣浩司記念劇場」(東京都台東区)にて、「劇団Nooooon!!」(飯塚則子代表)旗揚げ公演『THE LIGHT STAFF 2012』の舞台が行われました。
この作品は、脚本に2011年のドラマ「私が恋愛出来ない理由」の脚本を手掛けた坂口理子さん。演出には、元NHKプロデューサーの一井久司さん。そして メインキャストにCMやドラマ、映画などで活躍中の、源さん、柴木丈瑠さん、川崎亜沙美さん、大星圭子さんら豪華俳優陣をむかえ、小さな劇場の舞台裏で起 こる人間模様をユーモアと人情たっぷりに描いたものです。
▲左:ある出来事から人との関わりを避けるようになってしまった職人気質の照明係、高杉亮一を演じるのは、テレビCMをはじめ「魔弾戦記リュウケンドー」などでおなじみの源さん。
▲右:高杉と心を通わすことで成長する新人照明係、森沢信二役の柴木丈瑠さん。舞台だけでなく、映画(バトル・ロワイアルII 鎮魂歌・他)やテレビ(百獣戦隊ガオレンジャー、轟轟戦隊ボウケンジャー)、Vシネマ、ゲームなど多方面で活躍中。
▲左:NHK連続テレビ小説「カーネーション」で次女役を務めた川崎亜沙美さんは、今回、約1年半ぶりの舞台復帰で主役の高杉亮一を思うヒロイン有村京子役を演じる。
▲右:わがままなアイドル女優、瀬田エリナ役を等身大の演技で体当たりするのは、この日が舞台デビューとなった中島かれんさん。
今回のレポートでは、5月17日の舞台初日の模様をダイジェストでご紹介するとともに、「劇団Nooooon!!」の代表であり、この作品で舞台監督を務めた飯塚則子さん、演出を担当した一井久司さん、キャストからは柴木丈瑠さん、川崎亜沙美さん、そしてこの日が舞台デビューとなった新人・中島かれんさんに、舞台初日を終えての感想をお聞きしましたので、あわせてご覧ください。
(レポート:松田秀人)
THE LIGHT STAFF 2012
ストーリー
〜誰かが信じてくれれば、人は、信じられないほど強くなれる〜
「宇宙飛行士の映画に魅せられた少年は『THE “R”IGHT STUFF』(=正しい資質)を持つことを夢みた。だが、そんな彼が辿り着いたのは小さな劇場の『THE “L”IGHT STAFF』(=照明係)。果たして彼は舞台という名のロケットを飛ばすことができるのだろうか……?今まさに青春真っ只中な人、青春と聞くと思 わず遠い目をしてしまう人、そしてひとまわりしてもう一度青春を謳歌している人へ」(パンフレットより)
脚本:坂口理子 演出:一井久司
舞台監督:飯塚則子(劇団Nooooon!!代表 / 株式会社ライスマウンド)
出演
・高杉亮一 / 源 (GIG MANAGEMENT)
・森沢信二 / 柴木丈瑠(アンティーヌ)
・有村京子(Wキャスト) / 川崎亜沙美 (リコモーション)
・有村京子(Wキャスト) / 大星圭子 Wキャスト
・藤川美園 / 斎藤啓子(タッタタ探険組合)
・北山 響 / 岡田真美(ライスマウンド提携)
・小峰数子 / 片岡奈保子(演劇集団 池田塾)
・瀬田エリナ / 中島かれん(SMASH MODEL MANAGEMENT)
・野口浩太 / 大久保了(劇団リサイクル)
・田村 誠 / 高橋茶太郎(ライスマウンド)
・山岸直也 / 渡邉邦彦(ライスマウンド)
・佐竹絹江 / 鈴木絵里加
スタッフ
音楽:高橋たかふみ
音響:伊藤幸拓
照明:菊池永智
美術:又や堂
イラスト:昌原光一
制作:株式会社ライスマウンド
協力:大塚製薬
会場:戸野廣浩司記念劇場
住所:東京都台東区谷中3-19-5
公演日:2012年5月17日〜5月20日
戸野廣浩司記念劇場方式ホームページ↓
URL:http://iandifactory.com/iandi/tonohiro/tonohiro.htm
会場:戸野廣浩司記念劇場
会場となった「戸野廣浩司記念劇場」は、演劇に青春の全てを賭け、成功を目前に志半ば散った無名の天才「戸野廣浩司」の魂を、現代の演劇人達に伝えたいとの願いを込めて、東京で話題の下町新スポット「谷中」に、2009年10月にオープンした小劇場です。
同劇場の周辺には、「猫が暮らす下町」でお馴染みの「谷中銀座」や「よみせ通り」があり、商店街は地元の方々と観光客が入り乱れ賑わっています。
戸野廣浩司記念劇場〜周辺マップ
THE LIGHT STAFF 2012 (5月17日初日)舞台風景
注)下記はあくまでもダイジェスト版なので、記事内のセリフ部分が台本と一致していないことをご了承願います。
▲スタッフが一眼となってロケットを打ち上げる場面が印象的なオープニング。
▲小さな劇場の『THE “L”IGHT STAFF』(=照明係)森沢信二は、子どもの頃に見た宇宙飛行士の映画『THE “R”IGHT STUFF』(=正しい資質)に憧れ、自分も「正しい資質」を持った人間になり、仲間達から信頼される仕事をし、みんなでひとつのロケットを打ち上げるような人生を歩みたいと夢見ているが、実際は厳しい現実にぶち当たり「正しい資質」を見失いかけている……。
▲場面は変わり、小劇場でのリハーサル風景。
▲幕開きを間近に控えるも、ベテラン女優藤川美園と、わがまま新人アイドル女優瀬田エリナのいざこざをはじめ、小道具の欠損や役者の病欠など、スタッフ間のやりとりがギクシャクし険悪なムードに……。
▲現場の雰囲気になじめない新人アルバイト照明係の信二を気づかい、声をかける有村京子。「でどうなの、はじめての劇場は?結構面白いでしょ開演前の劇場って!私大好きなんだよねこの雰囲気。なんだか出向前の船みたいで……。でもね、今回の船は出航前に沈没しそう……」。
▲照明係のリーダー高杉亮一から「手伝うことはない」と言われるも、「僕もう他に行くところがなくて……」と必至でくいさがる信二。しかし舞台監督の田村 誠から「無理に手伝わなくてええんや。高杉は腕もええし……。それに誰も信用せず、誰も必要としてないよってなぁ」とあしらわれる。「それでも僕、気合い入れてやりますから仕事を!」との懇願も空しく、今度は女性スタッフから「気合いなんて入れなくていいよ。ミスするほどの仕事なんてここにはないから……。でもラッキーじゃない楽なバイトなんだから!」と水をかけられる。
▲頑なに他人との関わりを拒む高杉に追いすがる信二を、舞台監督の田村が呼び止め、高杉の過去を耳打ちする。「実はな、高杉は以前もっと大きな劇場で照明係をやってたんやけど、ある時”網膜剥離”が原因で大きなミスを犯してしもて、その劇場を追われ、それ以後、手術の傷を隠すためサングラスをかけたまま仕事をし、他人との関わりもさけてるっちゅうわけや……」。
▲「サングラスしたまま照明やるんですか?」と信二。「色なんて全部頭に入ってんだよ!」と怒鳴りつける高杉。「サングラスはずしてみたら思っていた色と違うってことだって……」「だまってろ!」「す、すいません……」。
▲しかし意を決して自分の気持ちを高杉にぶつける信二。「むかし『THE “R”IGHT STUFF』(=正しい資質)って映画を見て感動し、その時、本物の資質・才能を持った人間になりたいと思ったんです。その映画では、コクピットに乗り込んだ宇宙飛行士はだだ一人だけで、みんなの信頼を一身に背負ってヒューストンからの指示をこなして行くんです。きっと、劇場の『THE “L”IGHT STAFF』(=照明係)も同じだと思うんです。調光室というコクピットで、たった一人だけど、それでも劇場のスタッフや役者達と信頼しあって、お芝居というロケットをお客さんを乗せて物語りの宇宙に飛ばすっていう…….。でも実際は俺なんて宇宙飛行士どころか……」
▲「それで……?今では照明のほうのLIGHT STAFFもダメになってしまったのか……?」信二の話しを聞き終えた高杉はすかさずそう言った。しかし信二のピュアな心に触れた高杉からは、先ほどまでのトゲトゲしさが感じられなくなっていた。「おい、なにボッ〜っとしてんだ早く脚立もってこい、無茶はいかんが、たまには無理してみろ!」と信二に声をかける。嬉しそうに作業をはじめる信二。
▲そこへ、ひょんなことから、ヤクザに追われる身のチンピラ二人組、兄貴分の山岸直也と子分の野口裕太が、逃走資金を確保するため、売上げ金を狙い劇場に舞い込む。ところが、婦人警官の舞台衣装を着た役者と出くわしパニックを起こしてしまう。そしてふかくにもピストルを乱射。信二と高杉がせっかく設置した照明に流れ弾が当たり壊れてしまう……。
▲銃声を聞きつけ舞台裏からスタッフや役者達がゾロゾロ……。しかし効果音が飛び交う劇場内での銃声など日常茶飯事……。誰ひとり驚かないばかりか、逆に照明が壊れたことによるマイナス効果をめぐり口論がはじまる有り様。客入れの時間まであとわずか!早速復旧作業に取りかかろうとするが、「今から修理なんて僕には無理です」そんな信二の発言に高杉は表情を曇らせてしまう。
▲信二とのやりとりで高杉の心の扉が開くと期待していた有村京子が、残念そうな面持ちで信二に話しかける。「視力は回復してるのよ……。それでもサングラスをかけたまま他人と向き合おうとしない本当の理由は、キズを隠すためじゃなくて、信頼していた仲間に裏切られたからなの……。ああ〜、あのサングラス、君ならはずせると思ったんだけどな……?」「なんで京子さんじゃ駄目なんですか?だって付き合い長いみたいだし……」「それが私じゃ駄目なんだな〜。網膜剥離がわかった時、はやく手術しないと失明するって医者から言われていたんだけれど……。でも、当時大きな舞台の照明がやっと巡ってきた時だったから、彼、失明してもいい!ってそのまま舞台を続けてしまったの……。結局、大事な場面できっかけを外してしまい、その舞台をおろされたわ……。実は、そのきっかけをワザと違うタイミングで出した裏切り者がいて、その裏切り者の舞台監督が私ってわけ……。ちゃんと手術……してほしかったんだよね……。どう、私じゃ駄目な理由がわかった?」「それはそうですけれど、だからってどうして僕ならできるんですか……」
▲京子は信二の問いかけに対し、過去に高杉も信二と同じことを自分に語ったことがあるからだと告げる。「調光室ってロケットのコクピットに似てないか?みろよ!ここからだと劇場全てが見渡せる!劇場っていうロケットをみんなで打ち上げる。調光室はそのコクピットだ!」
▲信二を買い出しに行かせ、ひとりになった京子の目前に、売上金を奪おうとしているチンピラの片割れ野口が躍り出た。しかし、驚くどころかアルバイトかなにかと勘違いしてチンピラ野口を怒鳴りつける京子。集まってきたスタッフ達からもいいようにいじられタジタジになる野口……。
▲「こ、小道具じゃなくて本物の拳銃だぞ!」「小道具かどうかなんて音聞きゃわかるのよ!」
▲「あれ?出ない……」「ほら、かしてみなさいよ……ここをこうして……」
▲「うるさ〜い!うるさ〜い!うるさ〜い!か、金を出せ〜!」。懲りずに舞台上で拳銃を乱射するチンピラ野口。現金を求め女優を人質に楽屋へ。
▲そうこうしているちにリハーサルの時間は終わり、舞台上と客席の間は幕で仕切られ、少しづつ観客が客席を埋めはじめた。「どうにかして外部の人間に現状を知らさなければ……」とその時、京子がさっき信二を買い出しに行かせたことを思いだす。
▲買い出しから戻った信二とインカムでやりとりをするスタッフ達。「みなさ〜ん、電池買ってきました〜」「おい森沢!今どこにいる?」「客席です。みなさんが見あたらないから受付にあったインカムを借りました。高杉さんは調光室ですか?」「いや舞台だ!」「では今からそちらへ」「だめだ来るな!お前はそのインカムを絶対にはずすな。いいな!」
▲状況を理解していない信二。「高杉さんさっきはすいませんでした……。でも僕、頑張りますからもう一度やらせてもらえないでしょうか?」。ここは信二に頼るしかないと心を決める高杉。「やってくれるか……?今はお前しかいない……」「あ、ありがとうございます!」「実は今、俺たちは舞台上から動けない」「はっ?」「拳銃を持った男が俺たちを人質にとり金を要求しているんだ。今すぐ警察に連絡しろ!」「はぁ?」「だからお前はそのインカムを絶対に離すな!そのインカムだけが唯一の繋がりなんだ」「は、はい……」。さらに高杉は、客席にいる信二に、急なトラブルによる公演中止のお知らせをアナウンスしろと指示をだすのだが……。
▲ところが信二は、言葉につまりながらも観客達に「開演まで今しばらくお待ちください」と独断でアナウンス内容を変更してしまう……。「おい森沢、お前いったい何を言っているんだ!こんな状態で幕を開けるなんて無理に決まっているだろ」と幕の後ろからインカムで呼びかける高杉。その言葉を振り払うように信二が叫ぶ。「まだ時間があります。だって高杉さんさっき言ったじゃないですか?無茶はよくないけど、たまには無理しろって……。今からなんとかすればすぐに警察が駆けつけます!そうすればきっと何とかなります!」
「確かにこの芝居は2時間ドラマの焼き直しのようなつまらない作品かもしれません……。でも、こうして幕が開くのを待っているお客さん達がいるんです。劇場はお客さんを乗せて飛ぶロケットです。どんなにくだらない芝居であっても、お客さんが乗り込んできたら、ロケットは飛ばなくちゃいけないんです!そのために僕たちはコクピットにいるんです。だから何があっても幕を開けましょう高杉さん!」
▲信二の言葉をしっかりと受け止めながら、スタッフ達が見守る中ゆっくりとサングラスをはずす高杉。「よし、わかった。やってみよう!お前は今すぐ警察に連絡し、それから調光室に行け!」
▲「高杉さん、警察、今すぐこちらに向かうそうです!それからこういう場合は犯人を刺激しないのが一番だそうです。僕はこれからお客さんが動揺して騒がないようにしてきます」と言い残し、信二は観客達に、幕の中から銃声や怒鳴り声、悲鳴が聞こえても、舞台準備の都合によるものであることをアナウンスする。
▲「なんだあいつ急にキビキビしやがって……」と高杉。「あなたのせいじゃない?彼の自信のもと」京子が微笑む。他のスタッフ達は「なんで彼、あんなに必至なんやろか?」「つまらない芝居なのに……」「チケット代背負わされているわけでもないのに」
「Show Must Go On」「劇はなにがあってもつづけなければならない」「ロケットは飛ばさなくちゃいけない」
▲「な、なんなんだ今のアナウンスは〜!お、お前らなにかたくらんでいるだろ!」
▲警察からの情報を信二が受けスタッフに伝える。「高杉さん、二人は山岸と野口というチンピラで、今ヤクザから追われているらしいんです。二人を追ってここにもヤクザが押し寄せる可能性があります。でも悪い知らせが……。警察がこちらに向かう途中に事故に会い、到着が遅れてしまうそうです……」
▲犯人の名前を聞いて舞台監督田村が渋い表情を浮かべ考え事をしている。「山岸と野口か……。ん〜野口?そういやぁどこかで聞いたような……?あ〜っお前、この前この芝居のオーディションを受けよって落ちた奴やろ。そうか、逆恨みでこんなことしよるんやな」。ばつの悪そうな表情を浮かべるチンピラ野口。「ちがう、うるさい!ち、ちきしょう……。なんだよ、俺がチンピラだからってバカにしやがって……。チンピラが芝居好きじゃいけないのかよ!」。そんな野口の言いぐさにキレる田村……。「だからや、だからあんたは落ちたんや……。チンピラやろがなんやろが、本当に芝居が好きで好きでたまらんちゅう奴やったら、俺はあんたを落とせへんかった……。けど、あんたの芝居に対する気持ちなんて、結局この程度のもんやったんや、こうやって、こんなことをして、平気で舞台を潰すような、その程度のもんやったんや。そんな奴、舞台に立つ資格あらへん!」
▲「どんなにつまらなくたって、どんなにくだらなくたって、なにがあったって幕は開けなきゃいけない!それがあたし達に課せられた使命なのよ!」とベテラン女優美園。するといきなりチンピラ野口が「あんた藤川美園だろ。俺、昔からあんたのファンだったんだよ。この芝居も、あんたが出てるって書いてあったからオーディションを受けたんだよ。あんたの芝居何度も観にいったよ」と告白。芝居にのめり込む込むことで、チンピラ稼業を忘れることができると思い込んでいた野口。美園とのやりとりを聞いていた佐竹絹江はたまらず、「今からでも遅くない、私達と一緒にやろう!」と声を張り上げた。
▲「そや!私服警官の役なんてどんなやろか?」と舞台監督田村の提案に、チンピラ野口も上機嫌。そこへ……。
▲兄貴分の山岸がギラギラした目つきで現れる。状況の変化を知らされていない信二は高杉からの連絡を待つばかり。
▲「森沢状況が変わった……。犯人が二人になり、俺たち全員人質にとられてしまった……」「高杉さん、犯人にインカムが見つかってしまったら僕たち……」。そこで高杉はインカムを隠すために、とっさにエリナが使用するはずの金髪のカツラをかぶった。
▲「なんだ貴様その格好は?っていうかある意味すげぇな……」と苦笑する山岸。「こ、これは、ヘヴィでメタルなロッカーの……」と高杉はわけのわからないことを言いつつインカムを通じ、信二にメッセージを送る。「ここにいる全員がお前を信じている。誰かが信じてくれれば、人は、信じられないほど強くなれる。そしてその時、人は正しい資質をもつ者、本当の『”R”IGHT STUFF』になれるんだ。俺は今コクピットにいる『 “L”IGHT STAFF』に全てをたくす。自分自身の力を信じろ!こっちのことはなんとかする。指示があるまで調光室でじっとしていろ」
▲幕開きの定刻まであとわずか、観客席もほぼ埋まりつつある……。警察の到着が遅れる以上、ここは自力でなんとかするしかない……。隙を見計らって、高杉がスタッフ達にそっと耳打ちをする……。「本番の芝居上で犯人を逮捕することはできないか?」「本番中に犯人逮捕って、つまり舞台の演出のひとつとしてやるってことですか?」「そういうことだ!」「観客にさとられずにどうやって?」「2時間ドラマのラストには犯人逮捕がつきものじゃないか、そこをどうにかならないか?」
▲そんな空気を察し、チンピラ山岸の気をそらそうと美園とエリナが色じかけで誘惑。「ねえ犯人さん、私、今の生活に飽き飽きしちゃったんだよね……。私を連れて逃げてくれない?」とエリナ。するとすかさず「そうはいかないわよ!あなたは私といっしょに逃げるのよ、せしめたお金といっしょにね……」と美園。「ちぇ、結局女なんてみんな打算的なんだな」と捨て台詞を吐きながらも、誘惑に負けて楽屋に連れ込まれる山岸。
▲「あいつらを犯人に仕立て上げる方法って……」「そや、ラストの犯人逮捕のシーンをオープニングにもってくれば、開幕直後に逮捕いけるで!2時間ドラマでよくある冒頭の回想パターンや!さあ、二人が時間を稼いでくれている間にとにかく幕を開けるんや!」
▲「森沢聞こえるか?」「はい聞こえます」「冒頭のシーンをラストに変更だ!そして奴らを芝居上の犯人として追い込む!」「はい!」「今から照明の設定を説明する、あわてるな!」「は、はい!」「設定が終わったら幕はきっかり3秒であける、いいな!定刻でいくぞ」「あっ、はい!」
▲そこへ血相を変えて野口が飛びこんできた。「兄貴、兄貴!組のやつら大勢でこの劇場のまわりを取り囲んでやがる。今にも搬入口からなだれ込んできそうな勢いで……。ど、どうしよう?」
▲迫真の演技で野口に迫る舞台監督田村。「野口さん!奴らが搬入口からなだれ込んでくるのは時間の問題や。だからあんたにこの芝居の犯人役をやってほしいんや!幕開け直後、あんたら二人を犯人役として、この舞台の正面から逃げ出させる演出をする。も、もちろんお客さんを守るためや!お客さん達を危険にさらすわけにはいかへん。だからあんたらはヤーさん達の気をひいて、できるだけ劇場から遠くへ離れてほしいんや〜!もちろん逃げ切れるかどうかはわからん……。けど、これはあんたにしかでけん役や」。田村の言葉に感動した野口は「わかった俺やるよ!俺の名演技みてろよ!」と雄叫びを上げる。
▲全てが整いあとは幕が開くのをまつばかり。そこで高杉はそっと京子に声をかける「京子ありがとう。俺が今でも正しい資質をもつ者、『RIGHT STUFF』でいられるのはお前のおかげだ」。言葉に詰まった京子は「て、定刻でいきます!」と言うのが精一杯だった。
▲「開演10秒前!照明、音響!」「はい!」「幕!」「はい、5、4、3、2、1……役者登場!」
▲緊張の幕開きは、刑事役の美園が、容疑者エリナを追い詰める場面……。本来ラストシーンだった部分。
▲そこへ、新たに無理矢理台本に書き加えられたチンピラ野口が割り込んでくるシーンが始まる。「まてまてまて〜本当の犯人はこの俺様だぁ〜!」。すかさずスポットライトをあてる森沢。何が起こっているのかわからず、ぼーぜんと立ちつくす山岸……。
▲婦人警官と対峙する野口。その後ろから「まずいわ!このままだと階段を上がって非常口から逃げられてしまうわ!」とわざとらしく叫ぶエリナ。「そうよそのまま右の路地に逃げ込んでしまえばそう簡単には捕まらないはず!」とまくしたてる美園。
▲野口はここぞとばかりに、ハトが豆鉄砲をくらったような表情をむける山岸の肩を鷲づかみにし、「サンキューーーーー!」と雄叫びをあげつつ、山岸を引きずりながらドタバタと舞台から姿を消した。
▲チンピラ達の後ろ姿を眺めつつ安堵の表情を浮かべる美園とエリナ。
▲冷静に仕事をこなした森沢を労いに調光室へ駆けつけた高杉。「ナイスフォロー森沢!」「た、高杉さん……」「さぁて、これからどうするかな?なにせラストがド頭にきちまったからな」「高杉さん、俺、おれ……」「なに泣きそうな顔してんだよ。幕はもう開いてるんだぞ!早くピンの位置につけよ、お前もライトスタッフだろ!」「はい!」「ようし本番はこれからだ。ピン上手から入るぞ。頭から狙っていけよ!」「はい!」
お疲れさまでした!(初日無事終演)
舞台初日を終えてのコメント
演出:一井久司さん
「まずこの作品の狙いのひとつに、客席と舞台がいつの間にか合体してしまうという部分があります。物語そのもののディテールや時間軸はリアルすぎるくらいなのに、随所にファンタジー的要素をちりばめ、テンポ良く流れるように見せているので、観客は役者達のセリフや演技に夢中になっているうちに、自分の意識が舞台上にあるのか?それとも客席にあるのかがわからなくなるような、そんな不思議な距離感に包まれる仕掛けをしています……。それとは別に根底に流れるテーマとして、不況や就職難、政治不信その他といった現代社会の中で、どこか置き去りにされてしまった”青春そのもの”を表現しています。もちろんお客さんに対して”青春とはなにか?”を声高に叫んでいるのではなく、作品の底辺に淡々と流れている人々の青春エネルギーを感じていただければと思っています。また今回は、いつもは別々で仕事をしている役者さん達が、この作品のために集まってきていますし、様々な形のリアルな青春を描くために、役者さんの年齢層も幅広く、そのため横の連携だけでなく、ベテランと新人をどのようにコラボレーションし、個人の魅力を引き立たせるかといった、縦の連携の部分にも非常に気をつかいました。年齢も性別も職業もバラバラだった人々が、純粋に芝居が好きだという気持ちだけで集まり、この『THE LIGHT STAFF 2012』という作品を通じ、意識をひとつにして最後はロケットを打ち上げる……。この作品は、まさに『劇団Nooooon!!』そのものであると思います」
柴木丈瑠さん〜森沢信二役
「終わってみて、ほんとに初日なんだなって実感しています。いい意味で緊張もしていましたし、少しかたい部分があったかもしれませんけど、できる限り稽古でやってきたことを忠実に再現しようとしました。今回の芝居では、僕が客席にいて、源さんが演じる高杉が舞台上にいて、幕一枚を挟んでインカムでやりとりをする場面があるのですが、僕のほうは客席の通路を歩きながら、アドリブでお客さんをいじらなければならないんですよ……。稽古時は、よし本番はあんなことやってみようかな?なんて考えてたりもしたのですが、実際にお客さんの真横にくると、思っていたようにはいかなくて……。まあ、その辺でもっと盛り上げようというのが明日からの課題ですし、お客さんのいじり方もどんどん進化していくと思います(笑)!とにかく、今回のメンバーって、演出の一井さん、舞台監督の飯塚さんはじめ、何年も同じ劇団員としてやってきたのではなく、この作品のために集まったメンバーなんです。その分、チームワークで勝負というよりは、個人技で見せなければならない部分が多いと思うので、役者さん達も妙な馴れ合いみたいなものがなく、終始自分を出し切る努力をしているので、きっとそうしたユーモアの中に垣間見る緊張感なども、この作品の見所になると思いますよ!」
☆柴木丈瑠 オフィシャルブログ「丈瑠流↑人生の楽しみ方」↓
URL:http://ameblo.jp/takeru-shibaki/
川崎亜沙美さん〜有村京子役
「いや〜1年半ぶりの舞台でした……。ん〜自分的にまだまだ納得はいってませんね……。明日はもっともっと気合い入れていきます。特に、今回演じた舞台裏を支えるスタッフの役というのは、日頃からハードな仕事ぶりなどを目の当たりにしているだけに、まだまだこんなもんじゃないっていう感覚も肌でわかっているから難しいですね……。でも、この作品のおかげで、スタッフに対する視点が今までとは違ったものになっているでしょうから、いい経験になっていると思います。またお客さんへの全体的な見せ方として難しかったのが、この劇場内で起こる出来事を、お客さんは最初から最後までそこに座っているのに、場面によって、お客さんがいないのが前提だったり、その逆だったり、そうした切りかわりを自然な形でお客さんに感じてもらわなければならないという部分ですね。あと、個人的には、あまり全体稽古に参加できず、逆に出演者のみなさんに助けてもらった形になるのですが、だからこそ、有村京子がひとりで高杉への思いを語るシーンに関しては力が入りました。今回はユーモアたっぷりに展開される場面が多い中、どちらかといえばシリアス担当なので、ストレートに喜怒哀楽を表現するというよりも、感情を抑えつつも、心の表情がしっかりとお客さんに伝わるような演技を心がけたので、そのあたりが伝わっていると嬉しいです」
☆川崎亜沙美の岸和田魂~バッチバチ~seasonⅡ↓
URL:http://ameblo.jp/nakanbayade/
中島かれんさん〜瀬田エリナ役
「小さな頃からバレエを習っていて、舞台には慣れていたはずなのに、やはり今日の初舞台は、幕開きまでとても緊張していました。ただ舞台の上に立ち、お客さんの顔を見て”ちゃんと見てもらっている”という実感がわいたと同時に自然と緊張が和らぎ、そこからは楽しむことができました。今回は年齢の設定も私とかわらない、わがままなアイドル女優を演じたのですが、両親からは”そのまんまじゃない?”なんてからかわれましたけど、私としてはかなり大げさに演じたつもりです(笑)。セリフに関しては、先輩方からいろいろとアドバイスいただき、かなり声が出るようにはなったのですが、まだまだ頭で考えながらやっているので、演技とセリフの一体感がありません。でも、きっとそれはお客さんにもわかってしまうと思うんです。だから、もっとその役になりきって、脳みそではなく、身体全体でセリフがいえるようになりたいと思います。あと、常にお客さんの視点から自分を見つめることも必要だと思いました。今の私にとっては稽古も本番も毎日が勉強です。あと3日間5公演、全力で頑張ります!よろしくお願いします!」
☆中島かれんオフィシャルブログ「Lovely in Pink」↓
URL:http://ameblo.jp/kncute/
☆中島かれんtwitter↓
URL:http://twitter.com/#!/pinkygirl0715
舞台監督:飯塚則子さん〜劇団Nooooon!!代表
「今日が『劇団Nooooon!!』旗揚げの初日ということで、終わってみてひとまずほっとしました。なにより、ご協力いただきましたみな様に本当に感謝しています。この劇団は、もともと、今回演出を担当してくださった一井久司さんが演劇のワークショップを行っていて、それを私が引き継ぐことになったのがきっかけで、どうせワークショップをやるのなら何かちゃんとした形をつくっていきたいね!ということから生まれました。また旗揚げに伴い、演出の一井さんをはじめ、脚本の坂口さん、そしてメインキャストの源さん、柴木くん、亜沙美さんなど、みなさんこころよく引き受けてくれたおかげで、こうして初日を迎えることができ、やはり感謝感謝につきますね!ただ明日からも金・土・日と計5公演が残っていますから、ほっとしつつも、気を引き締めていかねければなりません。そしてこの劇団もこれを機会に、今後様々なことにチャレンジしていければと思っています。今回の『THE LIGHT STAFF 2012』という作品内容は、いわばこの劇団そのものだと感じています。せっかくいいチームが出来上がったので、2弾、3弾と、みんなでロケットを打ち上げていきたいです!みなさま今後ともよろしくお願いいたします」
☆劇団Nooooon!!〜株式会社ライスマウンドホームページ↓
URL:http://ricemound.com/
関係者のみなさま、このたびは取材にご協力ありがとうございました。