TPAM(ティーパム)


投稿:2014.03.12
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横浜を舞台に繋げる、国境を超えた舞台芸術のプラットフォーム「TPAM」イベントレポートを去年に引き続きお届けします!

TPAM

 2014年2月8日から2月16日まで横浜を中心に展開されたアートイベント「TPAM」(ティーパム)は、演劇やダンスなどの上演作品を観ることができるだけではなく、舞台芸術関係者同士の交流を目的として行われている珍しいイベントで、世界各国から参加者が訪れています。

TPAM-2014

 昨年(2013年)は舞台関係者同士の交流を行う「ネットワーキング・プログラム」を中心にご紹介しましたが、今年は実際に作品を鑑賞するプログラム「ショーイング・プログラム」から「TPAMディレクション」「インターナショナル・ショーケース」「TPAMショーケース」の3つを取材いたしました。
 演劇、インスタレーション、パフォーマンス等、素晴らしいエネルギーに満ちた作品の魅力を余すところなくレポートいたしましたので、ぜひご覧ください。
(レポート:井手悠哉、井上哲朗)

 

TPAM in Yokohama 2014(国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014)

主催:国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014 実行委員会
会期:2014年2月8日〜2月16日
会場:ヨコハマ創造都市センター(YCC)、KAAT神奈川芸術劇場、BankART Studio NYK、横浜赤レンガ倉庫1号館、STスポット、他

2013年のTPAMレポートはこちらからご覧ください↓
http://www.pawanavi.com/yokohama/tpam/

 

 

「TPAM」とは?

「TPAM」とは、1995年に「芸術見本市」(Tokyo Performing arts Market)として開始。「見本市=Market 」という名の通り、舞台芸術作品の流通促進を目的としていましたが、2005年からネットワーキングに、より重点を置くようになりました。
 2011年から会場を横浜に移し、「TPAM」のMを「Market」から「Meeting」と改め、「国際舞台芸術ミーティング in 横浜」として再出発しました。

会期中、どんなことを行っているの?

「TPAM」では、上演作品を紹介する「ショーイング・プログラム」と、舞台芸術関係者が集い交流する「ネットワーキング・プログラム」の2つがあり、鑑賞のみを目的とする方からプロフェショナルまで、舞台芸術に関わる様々な人々が集まります。

 

ネットワーキング・プログラム会場「BankART Studio NYK」

 まずは、TPAMのメインコンテンツである「ネットワーキング・プログラム」のご紹介。「ネットワーキング・プログラム」は、去年と同様、みなとみらい線「馬車道駅」付近にある「BankART Studio NYK」の2階をメイン会場として行われました。

 

BankART Studio NYK

「BankART」とは、横浜市が2004年にスタートした「創造都市構想」のパイロット事業(試験的事業のこと)で、歴史的建造物や元港湾倉庫を芸術文化に活用して都心部再生の起点にしようという事業のこと。
 入場者数は年間約12万人にものぼり、美術、建築などのパフォーマンスを中心に、スタジオ、スクール、カフェ、ショップ、コンテンツ制作など多岐にわたり事業を行っています。

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▲「ネットワーキング・プログラム」の会場となった「BankART Studio NYK」の様子。昨年に比べると会場はシンプルに。ブースによるプレゼンテーションはなくなり、グループ・ミーティングが大きな位置を占めていました。それでも来場者の熱気は変わることがなく、更に凝縮されたイベントになっていました。

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▲また、取材中には「シャオ・クゥ × チョウ・ツゥ・ハン」によるパフォーマンスも行われていました。

 

「TPAMディレクション」(宮永琢生ディレクション)

 濱田英明 × 瀧澤日以 × 柴幸男「演劇」という名の展示

 

 さて、ここからは、昨年ご紹介できなかった「TPAMディレクション」「インターナショナル・ショーケース」「TPAMショーケース」の3つから構成される「ショーイング・プログラム」をご紹介いたします!

 まずは「TPAMディレクション」から。ユニークな活動を行なっている若手制作者をディレクターに選任して自由なコンセプトと新たな視点で作られた、「宮永琢生ディレクション・濱田英明 × 瀧澤日以 × 柴幸男「演劇」という名の展示」をインタビューを交えながらご紹介いたします。

〜2013年、私の出会った「演劇」は《日常》の中にありました。人がそこで生きるという事、その中に「物語」はあり「演劇」はあります。そんな当たり前の事を思い出させてくれたのは、瀬戸内国際芸術祭に参加するため訪れた小豆島での生活でした。光、音、海、風、港、島、人、空間、時間。「演劇」と出会うこと、それは久しぶりに会った友人と写真を撮った時の気恥ずかしさだったり、デートでお気に入りの服に袖を通したときの高揚感だったり、満員電車の中で Twitterから流れてきた言葉に心安らぐことだったり。そんな何でもない《日常》の中に紛れ込んでいるものだったりします。そして、そこで生まれた感情はすべて世界と《関係》を持つということで生まれたものです。2014年、私が出会いたい「演劇」は《関係》の中にあります。今回は、写真、衣服、言葉の展示を介して《関係》から生まれる「演劇」を立ち上げたいと思います。〜

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▲宮永琢生(制作者・プロデューサー)
1981年東京都生まれ。企画制作・プロデュースユニット「ZuQnZ(ズキュンズ)」主宰。2007〜 2011年、劇団青年団にて本公演および関連公演の制作に携わる。2009年に柴幸男と共に「ままごと」を起ち上げ、製作総指揮&プロデューサーを務める。他に黒川深雪(InnocentSphere)とのユニット「toi(トイ)」のプロデュース、音楽ユニット「□□□(クチロロ)」のライブ企画制作などがある。

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▲宮永さんの作品は「撮るという演劇」「書くという演劇」「着るという演劇」の3つから構成されている。

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『撮るという演劇』

宮永琢生さん:「この展示にはどこかしらに嘘が紛れています。観覧方法が記載された紙に”これは明日の撮られたものです”という文字が書いてありますが、明日撮られたという視点で見るだけで見る側の感覚が変わるのではないかと考えています。また、それぞれにテーマをもたせたインスタントカメラをいくつか置いています。これを皆さんに自由に持って行ってもらって、一枚だけ「明日の写真」を撮ってもらい、このカメラの写真を現像して、展示に増やしていくという試みもしています」

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『書くという演劇』

宮永琢生さん:「1番から9番までのポストがあり、その中にそれぞれ手紙が入っています。どの手紙も”全てあなたに宛てられた手紙”であり、また各ポストの中に入っている手紙はそれぞれ読む場所が指定されています。観に来た方には1つのポストから手紙を出して指定された場所に行き読んでいただき、さらに返事を書いてここにある専用のポストに投函してもらいます。それから私たちが同じ番号の手紙を読んだ人の返信をランダムに混ぜて配送し、差し出し人も書いていない全く知らない人の手紙が届くという仕組みになっています」

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『着るという演劇』

 

宮永琢生さん:「服には値札の代わりにその服をかつて着ていた”だろう”人のプロフィールが書いてあり、その方に思いを馳せながら観て、そして実際に着て街に出歩けるようになっています。また服を着られた方には、その服とともに写真を撮り、その写真もまた服とともに展示をしていきます」

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Q:この展示を行おうとしたきっかけは?

宮永琢生さん:「昨年、所属する劇団『ままごと』で瀬戸内国際芸術祭に参加しており小豆島の港で演劇を行ったのですが、行ってみたら島には劇場も無くて「さて、どうしようか?」と悩んでいたんですね。そのとき主宰の柴がコンセプトとして挙げたのが「港の劇場」というものでした。簡単に言うと、これは港すべてが劇場であり、そこで起こること全てが演劇です。といったものなのですが、その時に、日常の中にある演劇的な瞬間というものは普段気付いていないだけでどこにでもあるんだと感じ、今回は横浜の日常の中から演劇を感じてもらうための起爆剤のような展示にしたいと思い企画しました。つまり展示自体が作品というのではなく、展示がお客さんと関係を持って初めて作品として立ち上がるように作ったつもりです。お客さんとの関係が生まれれば生まれるほど、面白くなっていく展示だと思うので、この形式の展示は場所を変えても成立するのではないかと思っています。最近では現代美術作家の方が劇場を使ったり、演劇人が町に出ていったり美術館で作品を発表したりと、活動する場所自体がクロスオーバーしていっているように感じます。それぞれの境界線がなくなり、自分たちが活動出来る場所の幅が広がっていき、場所を問わない関係から生まれる演劇をこれからも模索していきたいと思います」

 

「TPAMディレクション」(横堀ふみディレクション)

筒井潤+新長田で踊る人々

 次に取材したのは、同じく「TPAMディレクション」から「横堀ふみディレクション・筒井潤+新長田で踊る人々」。

〜『新長田のダンス事情』のプロジェクト・コンセプトは「新長田で踊る人に会いにいく」、2009年4月に始動した継続プロジェクトです。稽古場訪問やイン タビューを基盤に、数々のイベントを盛り込みながら、リサーチと実践を往復します。2013年に5年目を迎え、3名の演出家、振付家、現代美術作家らが 「新長田で踊る人々」と出会いながら、新たな舞台作品をつくる試みを始めました。今回はその中で筒井潤との試みを中心に、「新長田のダンス事情」における 試行の軌跡、「踊り」や「ダンス」にまつわる様々な事情を現前させる試みです。〜

TPAM 横浜 パワナビ イベント

▲筒井潤+新長田で踊る人々『新長田のダンス事情』Photo: Hideto Maezawa

 舞台はテーブルに新長田の人たちが集まり、お茶を飲みながら話すという和やかな雰囲気ではじまり、テーブルには老若男女、様々な国籍の方が揃っており、少し不思議な情景。ディスプレイで新長田の様子や踊る人たちのインタビューが流され、それに応じて舞台の前でそれぞれの踊りが披露されました。コリアンダンス、舞踊、ミャンマーの踊りと、当初はそれぞれ独立した「個」であったが、ラストに「新長田に住む住人」という共通のテーマ性をもった時、個が互いに融け合い、そこから紡ぎだされる素晴らしい一体感を垣間見ることが出来ました。

「インターナショナル・ショーケース 」

話し言葉の百科全書/ジョリス・ラコスト「コラール」(日本バージョン)

 

 続いては、国際的なプログラムに関わる「つくる人」はもちろん、海外のトレンドをいち早くキャッチしたい「みる人」も見逃せない、世界各地にネットワークを持つ文化団体と協力し海外で活躍する要注目アーティストの作品を紹介するショーケース「インターナショナル・ショーケース」から、「話し言葉の百科全書/ジョリス・ラコスト」を取材いたしました。

話し言葉の百科全書/ジョリス・ラコスト「コラール」(日本バージョン)
〜話し言葉の多様な形式に捧げられた、詩的で、生き生きとした、変容するオード 「話し言葉の百科全書」に収録されている音声資料によって構成された演目『コラール』を上演します。リサイタルでは、シンクロして重なり合う複数の声が、 さまざまな話し言葉の形式的構造を明らかにし、話し言葉によるアンサンブルを生み出します。このたび、青年団の俳優たちとのコラボレーションにより、ワー クショップを経て制作された『コラール』日本バージョンが、国際舞台芸術ミーティング in 横浜にて世界初上演されます。〜

TPAM-2014

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▲スピーチや話し言葉の多様な形式について横断的な方法でアプローチするため、ジョリス・ラコストが2007年に開始したプロジェクト。あらゆる録音資料を収集し、リズムやハーモニー、圧縮、誇張、間隔、旋律、反復、残余、飽和、音色などの特徴に応じて、話し言葉を分類し「百科全書」を構成しています。

 十数名の演者が階段に立ち、指揮者が厳粛に腕を振る様子はまるでオーケストラのよう。しかし内容は日本語の授業、競りの様子などをユニークに表現していてとても楽しいものでもあり、シンクロして重なり合う複数の声が、話し言葉によるアンサンブルを生み出していました。

 

「TPAMショーケース 」

革命アイドル暴走ちゃん「騒音と闇」

 最後に、「TPAM」期間中に横浜・東京エリアで公演を行なっているアーティスト/カンパニーが自発的に集まった個性あふれるショーケースの中から、圧倒的な爆発力で見る者を魅了する「革命アイドル暴走ちゃん」を取材しました。

〜革命アイドル暴走ちゃん日本初の公演機会。舞台に上がった大群衆が終始踊り続ける姿は一見、無秩序なカオスを思わせるが、時に北朝鮮のマスゲームをも彷彿させる。使い捨て時代に生きる現代の縮図が空間を席巻する。〜

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 「衣服が汚れるため雨合羽を着てください!」こんな言葉が平然と飛び交う入場口。場内には「これからどうなってしまうのだろう」という観客の期待と不安、そして包み込むような妙な高揚感。
 パフォーマンス時間はおよそ40分。スタートからフルスロットルで駆け出したエネルギーはとどまることなく、そして戸惑うことなく観客を飲み込みながら一直線に現実から乖離していきます。その圧倒的なエネルギーを前に、水、小麦粉、わかめ、そして生ものが飛んでくるという恐怖感からビクビクしていた取材班も、次第に開放的になり不思議と幸せな気分に浸りはじめました。
 アンコール後、観客が演者に誘われ舞台に上がったのですが、そこで目にした光景は観客と演者の一体感、そして「騒音と闇」を突き抜けたあとの、皆のほとばしる笑顔と光でした。


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